ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」

臭いが気になればトリコモナスかも・・・ その1

 おりもの(帯下)の臭いが気になって・・・、という訴えでクリニックを受診する人は少なくありません。そんな人のなかで、トリコモナスに感染している人がときどきいます。今回は、そのトリコモナスについてお話したいのですが、まずは「おりものの臭い」について考えていきましょう。

 臭いというものは主観的なもので、患者さんが気にしている場合でも、実際には正常範囲の臭いという場合も少なくありません。逆に、他覚的にみて(医師が診て)、明らかな悪臭がある場合でも、患者さんは「特に気になりません」と言われることもありますから不思議です。

 おりものの臭いは、何も病気がない人でもまったくの無臭ということはありませんし、体調や生理周期によって変化するのが普通です。また、年齢によっても変化しますから、以前と比べて「おりものの臭いが変わった」といって受診する人のなかにも、まったく問題のない場合もあります。正常なおりものの臭いは、少し酸っぱいような香りがします。これは、正常な腟内の状態は酸性であるためだと思われます。

 おりものの正体は、子宮や膣の粘膜が新陳代謝ではがれたものや分泌物などが合わさったものと考えていいと思います。ときどき、「おりものがでてきて・・・」というだけで受診される人がいますが、まったくおりもののない人というのもあまりおらず、ほとんどの人は自分で確認できるくらいのおりものがあります。

 おりものは、膣の粘膜を湿った状態にする役割をしています。これは、老廃物を外に出すために有用ですし、外部から侵入する雑菌や病原菌の浸入を防ぐ役割も果たしていますから、ある程度は必要なものなのです。また、酸性であるのは外部から侵入した雑菌の増殖を防ぐのに効果があります。

 おりものの量については、個人差が非常に大きいと言えます。ほとんど出ない人もいれば、多いときは1日に何度もおりものシートを交換しなければならないという人もいます。量が多ければそれだけで異常というわけでは決してありません。一方、「量」に対し、「臭い」の異常は、なにか病気になっている可能性があると言えます。

 当たり前のことですが、おりものというのはなかなか他人のものとは比べることができません。ですから、どのような臭いが正常なのか異常なのか、なかなか見分けがつきにくいかもしれません。ひとつ、おすすめしたいのは、日頃からときどき自分のおりものをチェックして臭いに変化がないかどうか(イヤな臭いに変化していないかどうか)を確認するという方法です。

 おりものが以前に比べておかしな臭いがする・・・。このように感じるなら医療機関を受診すべきかもしれません。臭いに異常をきたす(悪臭がする)感染症というのは、いろいろあって、クラミジアや淋病も重症化すればおりものの臭いが悪臭となりますし、以前お伝えした「雑菌」による腟炎や子宮頚管炎でも悪臭が伴うことがあります。腟の奥に尖圭コンジローマができてそれが悪臭の原因だった、ということもありますし、子宮頚ガンは進行すると悪臭を放ちます。

 このようにおりものの臭いが悪化する原因はいろいろとあるのですが、日常の診察の現場で、おりものの悪臭があったとき、必ず疑わなければならない感染症がトリコモナス腟炎です。

 トリコモナスは生物学的には「原虫」に属します。この「原虫」を患者さんに説明するのはときにむつかしくて悩むことがあります。「トリコモナスって虫なのですか?」と聞かれることもありますが、「虫」というと患者さんによってイメージするものが異なるので、安易に「はい、虫の一種です」と答えるわけにもいきません。

 少し学術的な説明をすると、「原虫」とは単細胞の微生物で、自身で動くことのできるものを指します。トリコモナスの場合、鞭毛(べんもう)と呼ばれる毛のようなものが体から出ていてそれを動かしておりもののなかで泳ぐことができます。大きさは、大きいものであれば10x20マイクロメートル(ミリメートルの5分の1から10分の1)程度で、肉眼では見えませんが顕微鏡で観察することができます。

 私は、トリコモナスの患者さんに対しては、診察室で時間的に余裕があれば、顕微鏡で観察したトリコモナスをモニタにうつして動いているところを見てもらうようにしています。やや重症化していれば、画面中に、鞭毛を使って器用に動き回っているいくつものトリコモナスを見つけることができます。(けっこうカワイイです!)

 トリコモナスの感染経路は多くは性感染であろうと言われています。しかし、100%性感染というわけでもありません。教科書的には、浴場での感染や(入院している場合は)院内感染もある、となっています。実際、性交渉が一切ないのにもかかわらず繰り返しトリコモナスに感染する患者さんもいます。そして、トリコモナスという感染症は決して珍しい病気ではなく、教科書には成人の約5%が罹患している、と書かれています。

 トリコモナスは感染初期であればほとんど無症状ですが、進行すると(トリコモナスが仲間を増やすと)おりものに異常が現れます。典型例で言えば、少し黄色がかったさらっとしたおりものになり、泡状(泡沫状)になることもあります。そして、このようにおりものに変化があればほとんどはイヤな臭いを放ちます。さらに重症化すると、患者さんが診察室に入ってきただけでもそのイヤな臭いが分かることがあります。これは、医師でなくても異様な臭いが気になるはずですが、不思議なことに本人はそれほどの臭いがあるのにもかかわらずまったく気づいていないこともあります。

 つづく・・・

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プロフィール

医師。NPO法人GINA(ジーナ)代表。
太融寺町谷口医院(11月1日に「すてらめいとクリニック」から名称変更)院長。大阪市立大学医学部非常勤講師。著書に『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』(文芸社)など。