ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」
エピローグ~そして私が一番言いたかったこと~ (後編)
HBV(とHAV)のワクチンを接種して、(オーラルセックスの際も含めて)コンドームを用いた性交渉をおこったとしても、粘膜と粘膜の接触で感染する感染症は完全に防ぐことができない、ということを前回お話しました。
では、完全に性感染症を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。
考えられる方法は3つあります。1つは、「セックスを一切しない」という方法です。しかしこの方法は非現実的ですし、決してすすめられるものではありません。セックスは人間にとって必要なものですから、「性感染症を怖がって一切セックスをしない」なんていうのは、「交通事故にまきこまれるかもしれないから一切外出しない」と言っているようなものです。
2番目の方法は、「こういった感染症にかかるかもしれないというリスクを背負う」、という考え方です。性器ヘルペスや尖圭コンジローマは感染するとそれなりに大変ですが、命にかかわる病気ではありません。また、梅毒は時間がかかることがあるものの飲み薬だけで治る感染症です。ですから、「セックスという楽しいことをするんだから、それくらいのリスクは背負おう」、というふうに考えるのです。意識しているかしていないかは別にして、実際にはこの方法を選択している人が最も多いのではないかと思われます。つまり、ワクチン接種とコンドーム使用は守って、あとは「人事を尽くして天命を待つ」(おおげさ?)のです。
3番目の方法、そしてこの方法が私は個人的に最善だと思っているのですが、それは、「お互いに忠誠を誓ったパートナーとだけセックスをする」という方法です。この意見には小さくないブーイングがきそうですし、私は他人にこの考えを押し付けようとは思いません。あくまでも、個人的に最善と考えている方法であるということをあらかじめお断りしておきます。
しかしながら、「お互いに忠誠を誓ったパートナーとだけセックスをする」というこの方法は最善かつ最強の性感染症予防法であり、(異論もあるでしょうが)最も幸せになる方法であることを私は確信しています。
この考え方は非現実的であると言われることは百も承知しています。「自分は忠誠心を持っていたのにパートナーに裏切られた」、という話は掃いて捨てるほどありますし、「実際にいくらでもある家庭内感染はどうするんだ」、という声も聞こえてきそうです。
自分の夫からHIVをうつされる主婦、というのは日本ではそれほど多くはありませんが(とは言え少しずつ増えてきていますが・・・)、タイでは非常に多い感染経路です。いまや、タイのHIVの感染経路の第1位がこの「自分の夫から感染する主婦」で全体の4割に相当します。ちなみに、2位が男性同性愛者、3位がセックスワークによる感染です。
日本でも、ここ2~3年新たにHIV感染がみつかっている人のなかで、異性愛者(ヘテロセクシャル)、もしくは両性愛者(バイセクシャル)が増加しているように私は感じています。そして、そのなかで結婚している人が少なくないのです。いずれ日本も家庭内でのHIV感染が注目される日が来るでしょう。もちろん、HIV以前に、クラミジアや淋病などありふれた感染症が夫婦間で感染することはまったく珍しくありません。
主婦が夫から感染することが多い事実を受けて、タイのHIVに関連する社会団体のいくつかは、「家庭内にもコンドームを」というスローガンを掲げています。しかし、家庭内でのコンドームというのは現実的でしょうか。日本人ほどではありませんが、タイ人もコンドームをそれほど積極的に使用しているわけではありません。特に家庭内で、避妊目的以外でコンドームを使用するタイ人男性がどれだけいるのか私には大いに疑問です。「家庭内にもコンドーム」というスローガンは、実現不可能な「絵に描いた餅」にすぎないのです。
では、どうすればいいのでしょうか。
非現実的と言われようが、理想論と言われようが、その考えの方がよほど「絵に描いた餅」ではないかと言われようが、「お互いに忠誠を誓ったパートナーとだけセックスをする」という方法が最適なのです。
私のこの考えは矛盾しているようにみえるかもしれません。なぜなら、自分の夫からHIVに感染した主婦は、自らは忠誠を誓いそして夫を信じていたからこそ感染したのではないか、と言われかねないからです。
けれども、よく考えてみると決してそういうわけではありません。「お互いに忠誠を誓う」と「夫の言いなりになる」では天と地ほどの差があります。2010年7月にウイーンで開催された第18回国際エイズ会議で、オウマ・オバマ氏(米国大統領のバラク・オバマ氏の異母姉)が、「アフリカの女性は(自分の夫に)"NO"と言うことができない」ということをスピーチで述べましたが、これは決してアフリカの女性だけではありません。タイの主婦たちも、そしておそらく日本でも同様の問題が存在するでしょう。
女性がセックスの場面において弱い立場にいる、というのはアフリカだけでなく多くの地域で存在する事実です。これはこれで改善されなければならないのは自明ですが、ここではこの問題には立ち入らないで、今回は、「あなたと相手が対等の関係にいる」という前提で話をすすめたいと思います。
まず、「お互いに忠誠を誓う」を実践するには、相手を信じることができなければなりません。そして本当に相手のことを信じることができるようになるには、相手があなたに対して誠実であることをあなた自身が実感できることが絶対に必要です。そして、相手が誠実であることをあなた自身が実感できるまでは性交渉をもつべきでないのです。それでも性交渉を持ちたいのならば、性感染症のリスクを抱えて性交渉をおこなうしかありません。(性交渉をもつべきでないことは分かっているのだけれど"NO"と言えないのが、アフリカの、そしてタイや日本の一部の女性なのです)
では、相手に誠実になってもらうにはどうすればいいのでしょうか。それは、まずはあなた自身が誠実な人間になることです。自分が誠実でないのに相手に誠実を求めるなどというのは、喫煙者が他人に対し「タバコをやめなさい」と言っているようなものです。
もちろん、「お互いが誠実になる」というのは口で言うほど簡単なことではありません。しかし、「相手に誠実さを求めるならまずは自分自身が誠実になる」ということは、古今東西不変の原則であったはずです。あなたが相手に対して一点の曇りもない誠実さを持っているなら、やがて相手もあなたに対して誠実になるでしょう。そうなれば、「お互いに忠誠を誓う」が可能になるのです。
私のこの考えを他人に押し付けようとは思いません。しかし、たとえ誰も同意してくれなかったとしても、真実であるはずのこのことを言い続けよう。私はそのように考えています。
もしも、あなたとあなたのパートナーが忠誠を誓い、ふたりとも性感染症の検査をしていれば、もうあなたは性感染症を心配する必要がないのです。そして、(避妊の問題を除けば)コンドームすら必要ないのです。
これまで、このコラムでは、いろいろな性感染症のことを実際の症例も取り入れてお話してきました。それぞれの性感染症の特徴や、細かい情報までお伝えしてきましたが、私が一番言いたかったのは、「お互いに忠誠を誓ったパートナーとだけセックスをする」に勝る安全で安心、そして幸福なセックスは存在しないということなのです。
これを読んでくれているすべての人が、いずれお互いに忠誠を誓った素敵なパートナーとセックスを楽しめるようになることを祈りながら最終回のペンを置きたいと思います。
(了)
では、完全に性感染症を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。
考えられる方法は3つあります。1つは、「セックスを一切しない」という方法です。しかしこの方法は非現実的ですし、決してすすめられるものではありません。セックスは人間にとって必要なものですから、「性感染症を怖がって一切セックスをしない」なんていうのは、「交通事故にまきこまれるかもしれないから一切外出しない」と言っているようなものです。
2番目の方法は、「こういった感染症にかかるかもしれないというリスクを背負う」、という考え方です。性器ヘルペスや尖圭コンジローマは感染するとそれなりに大変ですが、命にかかわる病気ではありません。また、梅毒は時間がかかることがあるものの飲み薬だけで治る感染症です。ですから、「セックスという楽しいことをするんだから、それくらいのリスクは背負おう」、というふうに考えるのです。意識しているかしていないかは別にして、実際にはこの方法を選択している人が最も多いのではないかと思われます。つまり、ワクチン接種とコンドーム使用は守って、あとは「人事を尽くして天命を待つ」(おおげさ?)のです。
3番目の方法、そしてこの方法が私は個人的に最善だと思っているのですが、それは、「お互いに忠誠を誓ったパートナーとだけセックスをする」という方法です。この意見には小さくないブーイングがきそうですし、私は他人にこの考えを押し付けようとは思いません。あくまでも、個人的に最善と考えている方法であるということをあらかじめお断りしておきます。
しかしながら、「お互いに忠誠を誓ったパートナーとだけセックスをする」というこの方法は最善かつ最強の性感染症予防法であり、(異論もあるでしょうが)最も幸せになる方法であることを私は確信しています。
この考え方は非現実的であると言われることは百も承知しています。「自分は忠誠心を持っていたのにパートナーに裏切られた」、という話は掃いて捨てるほどありますし、「実際にいくらでもある家庭内感染はどうするんだ」、という声も聞こえてきそうです。
自分の夫からHIVをうつされる主婦、というのは日本ではそれほど多くはありませんが(とは言え少しずつ増えてきていますが・・・)、タイでは非常に多い感染経路です。いまや、タイのHIVの感染経路の第1位がこの「自分の夫から感染する主婦」で全体の4割に相当します。ちなみに、2位が男性同性愛者、3位がセックスワークによる感染です。
日本でも、ここ2~3年新たにHIV感染がみつかっている人のなかで、異性愛者(ヘテロセクシャル)、もしくは両性愛者(バイセクシャル)が増加しているように私は感じています。そして、そのなかで結婚している人が少なくないのです。いずれ日本も家庭内でのHIV感染が注目される日が来るでしょう。もちろん、HIV以前に、クラミジアや淋病などありふれた感染症が夫婦間で感染することはまったく珍しくありません。
主婦が夫から感染することが多い事実を受けて、タイのHIVに関連する社会団体のいくつかは、「家庭内にもコンドームを」というスローガンを掲げています。しかし、家庭内でのコンドームというのは現実的でしょうか。日本人ほどではありませんが、タイ人もコンドームをそれほど積極的に使用しているわけではありません。特に家庭内で、避妊目的以外でコンドームを使用するタイ人男性がどれだけいるのか私には大いに疑問です。「家庭内にもコンドーム」というスローガンは、実現不可能な「絵に描いた餅」にすぎないのです。
では、どうすればいいのでしょうか。
非現実的と言われようが、理想論と言われようが、その考えの方がよほど「絵に描いた餅」ではないかと言われようが、「お互いに忠誠を誓ったパートナーとだけセックスをする」という方法が最適なのです。
私のこの考えは矛盾しているようにみえるかもしれません。なぜなら、自分の夫からHIVに感染した主婦は、自らは忠誠を誓いそして夫を信じていたからこそ感染したのではないか、と言われかねないからです。
けれども、よく考えてみると決してそういうわけではありません。「お互いに忠誠を誓う」と「夫の言いなりになる」では天と地ほどの差があります。2010年7月にウイーンで開催された第18回国際エイズ会議で、オウマ・オバマ氏(米国大統領のバラク・オバマ氏の異母姉)が、「アフリカの女性は(自分の夫に)"NO"と言うことができない」ということをスピーチで述べましたが、これは決してアフリカの女性だけではありません。タイの主婦たちも、そしておそらく日本でも同様の問題が存在するでしょう。
女性がセックスの場面において弱い立場にいる、というのはアフリカだけでなく多くの地域で存在する事実です。これはこれで改善されなければならないのは自明ですが、ここではこの問題には立ち入らないで、今回は、「あなたと相手が対等の関係にいる」という前提で話をすすめたいと思います。
まず、「お互いに忠誠を誓う」を実践するには、相手を信じることができなければなりません。そして本当に相手のことを信じることができるようになるには、相手があなたに対して誠実であることをあなた自身が実感できることが絶対に必要です。そして、相手が誠実であることをあなた自身が実感できるまでは性交渉をもつべきでないのです。それでも性交渉を持ちたいのならば、性感染症のリスクを抱えて性交渉をおこなうしかありません。(性交渉をもつべきでないことは分かっているのだけれど"NO"と言えないのが、アフリカの、そしてタイや日本の一部の女性なのです)
では、相手に誠実になってもらうにはどうすればいいのでしょうか。それは、まずはあなた自身が誠実な人間になることです。自分が誠実でないのに相手に誠実を求めるなどというのは、喫煙者が他人に対し「タバコをやめなさい」と言っているようなものです。
もちろん、「お互いが誠実になる」というのは口で言うほど簡単なことではありません。しかし、「相手に誠実さを求めるならまずは自分自身が誠実になる」ということは、古今東西不変の原則であったはずです。あなたが相手に対して一点の曇りもない誠実さを持っているなら、やがて相手もあなたに対して誠実になるでしょう。そうなれば、「お互いに忠誠を誓う」が可能になるのです。
私のこの考えを他人に押し付けようとは思いません。しかし、たとえ誰も同意してくれなかったとしても、真実であるはずのこのことを言い続けよう。私はそのように考えています。
もしも、あなたとあなたのパートナーが忠誠を誓い、ふたりとも性感染症の検査をしていれば、もうあなたは性感染症を心配する必要がないのです。そして、(避妊の問題を除けば)コンドームすら必要ないのです。
これまで、このコラムでは、いろいろな性感染症のことを実際の症例も取り入れてお話してきました。それぞれの性感染症の特徴や、細かい情報までお伝えしてきましたが、私が一番言いたかったのは、「お互いに忠誠を誓ったパートナーとだけセックスをする」に勝る安全で安心、そして幸福なセックスは存在しないということなのです。
これを読んでくれているすべての人が、いずれお互いに忠誠を誓った素敵なパートナーとセックスを楽しめるようになることを祈りながら最終回のペンを置きたいと思います。
(了)
エピローグ~そして私が一番言いたかったこと~(前編)
早いものでこの連載も2年を超えることとなりました。私は、主にタイのエイズ患者さんやエイズ孤児を支援しているNPO法人GINA(ジーナ)の主催者であり、また医師としては、大阪市北区にある太融寺町谷口医院というクリニックの院長をしている他、大阪市立大学医学部附属病院総合診療センターの非常勤講師でもあります。クリニックでは、総合診療を実践しており、特に性感染症のみに力を入れているというわけではないのですが、GINAの活動やときどきおこなっている性感染症関連の講演などの影響もあって、性感染症の患者さんが毎日のように受診されます。
この連載を始めてからは、「sexbaのコラムを読んで受診しました」という患者さんがときどき来られましたし、「谷口先生のところには遠くて受診できないので私の地域でいいクリニックを教えてください」、といったsexbaのサイトを見たという方からのお便りもいただきました。
さて、2年以上にわたり続けさせてもらったこの連載も今回(と次回)をもって最終回にしたいと思います。これまでの連載で、頻度の高い性感染症についてはほとんど網羅しましたし、とりあえずの区切りがついたのではないかと感じています。
HIVについては特に言及していませんが、この理由は、HIVは他の感染症と少し意味合いが異なり、多角的な切り口で語られるべきであるために、他の性感染症と同列には扱いにくいからです。HIVほど社会的な様々な問題が伴う感染症は他には見当たりません。HIVを語るには、単なる性感染症としてみるのではなく、売買春、母子感染、薬物の問題、同性愛、性転換、さらに差別や偏見、スティグマ、といった社会的な問題についても考えなければなりません。HIVに関して、そういった様々な観点から考察したコラムは、NPO法人GINA(ジーナ)のサイトで『GINAと共に』というタイトルで連載していますので、興味のある方は参照いただければと思います。
sexbaのこのコラムの連載を私が引き受けた理由の1つは、sexbaの目的が「セックスの安心と安全をみんなで考える」というものだったからです。セックスの危険性、なかでも性感染症に対する誤解が世間では少なくないために、「こんなはずじゃなかった・・・」と後悔してもしきれないような体験をされる方は少なくありません。「もしもはじめからそのことを知っていればこんなことにならなかったのに・・・」という"被害者"をこれ以上出さないためにも、引き受けることを決意したのです。
「こんなはずじゃなかった・・・」については、少し例をあげると、コンドームがあればすべての性感染症が防げると思っていた21歳の女性が、お金を介したセックスをおこない、B型肝炎ウイルス(以下HBV)に感染し、劇症肝炎を起こして生死をさまよった、というものがあります。フェラチオでクラミジアに感染し、それに気付かず大切な人にうつしてしまって関係が崩壊・・・、なんていうことは本当によくあります。
よく、「すべての性感染症を防ぐ方法を教えてください」という質問を受けます。これはもっともな質問で、いくら個別の感染症について詳しく学んだとしても、聞いたことのない、そして軽症でない感染症にかかってしまった、というのでは意味がないからです。
最終回の今回は、具体的な感染症についてではなく、「どのようにすればトータルで感染予防ができるか」、についてお話したいと思います。
まず、「コンドームがあれば安心」という考えは捨てなければなりません。これまでの連載でみてきたように、コンドームをしていても完全に防げない感染症は、梅毒、HBV、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、ケジラミ、・・・、と少なくありません。また、「コンドームは常にしています」と言っている人でも、よく聞いてみると、オーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)のときにはしていない、という人が少なくありません。(クンニリングスには「デンタルダム」という女性器にかぶせるシートを用いてプロテクトする方法がありますが、日本ではほとんど売れないそうです)
コンドームは大変すぐれた性感染症を予防するグッズではありますが、完全に防ぐことはできません。また、破損するリスクや、ラテックスアレルギーのリスクもあります。やみくもに「コンドームがあれば安心」などと考えるのは危険なのです。
とはいえ、「どのようにすればトータルで感染予防ができるか」を考えたとき、コンドームは不可欠と言えます。すべての感染症を完全に防げるわけではありませんが、それでもコンドームなしの性交渉というのは危険性が飛躍的に高まります。
ここで、性感染症の重症度を考えてみましょう。感染しても適切な治療をおこなえば完治する感染症と、いったん感染すると人生を大きく変えてしまう感染症では重症度がまったく異なります。いったん感染すると人生を大きく変えてしまう感染症、言い換えると「命にかかわる感染症」となりますが、重要なのは、HBV、HCV(C型肝炎ウイルス)、HIVです。(これにHTLV-1を加えてもいいと思います。またアナルセックスをする人はHAV(A型肝炎ウイルス)も入れるべきでしょう)
これらのうち、HCV、HIV、HTLV-1はコンドームをしていればほぼ100%感染を防ぐことができます。(ただしオーラルセックスの際にも必要です) 一方、HBVとHAVはコンドームでは完全に防げません。しかしながら、この2つの感染症にはすぐれたワクチンがあります。ワクチンを接種して抗体をつくっておけば感染することはないのです。
HBV(とHAV)のワクチンを接種して、(オーラルセックスの際も含めて)コンドームを用いた性交渉をおこったとしても、粘膜と粘膜の接触で感染する感染症は完全に防ぐことができません。梅毒、性器ヘルペス、尖圭コンジローマあたりがその代表ですが、ではこれらはどのようにして防げばいいのでしょうか。
結論から言えば、これらを完全に防ぐ方法はありません。コンドームをすれば感染のリスクを大きく減らすことはできますが、完全ではありません。性器ヘルペスは症状の出ていないときにも感染させますし、梅毒や尖圭コンジローマは痛みも痒みもないために、発症していることに気付いていない人が多いのです。こういった感染症にも絶対にかかりたくない、というのであれば、セックスをやめる以外に方法がありません。
では、実際にはどのようにすればいいのでしょうか。後編でお話したいと思います。
(次回は11月15日掲載予定)
この連載を始めてからは、「sexbaのコラムを読んで受診しました」という患者さんがときどき来られましたし、「谷口先生のところには遠くて受診できないので私の地域でいいクリニックを教えてください」、といったsexbaのサイトを見たという方からのお便りもいただきました。
さて、2年以上にわたり続けさせてもらったこの連載も今回(と次回)をもって最終回にしたいと思います。これまでの連載で、頻度の高い性感染症についてはほとんど網羅しましたし、とりあえずの区切りがついたのではないかと感じています。
HIVについては特に言及していませんが、この理由は、HIVは他の感染症と少し意味合いが異なり、多角的な切り口で語られるべきであるために、他の性感染症と同列には扱いにくいからです。HIVほど社会的な様々な問題が伴う感染症は他には見当たりません。HIVを語るには、単なる性感染症としてみるのではなく、売買春、母子感染、薬物の問題、同性愛、性転換、さらに差別や偏見、スティグマ、といった社会的な問題についても考えなければなりません。HIVに関して、そういった様々な観点から考察したコラムは、NPO法人GINA(ジーナ)のサイトで『GINAと共に』というタイトルで連載していますので、興味のある方は参照いただければと思います。
sexbaのこのコラムの連載を私が引き受けた理由の1つは、sexbaの目的が「セックスの安心と安全をみんなで考える」というものだったからです。セックスの危険性、なかでも性感染症に対する誤解が世間では少なくないために、「こんなはずじゃなかった・・・」と後悔してもしきれないような体験をされる方は少なくありません。「もしもはじめからそのことを知っていればこんなことにならなかったのに・・・」という"被害者"をこれ以上出さないためにも、引き受けることを決意したのです。
「こんなはずじゃなかった・・・」については、少し例をあげると、コンドームがあればすべての性感染症が防げると思っていた21歳の女性が、お金を介したセックスをおこない、B型肝炎ウイルス(以下HBV)に感染し、劇症肝炎を起こして生死をさまよった、というものがあります。フェラチオでクラミジアに感染し、それに気付かず大切な人にうつしてしまって関係が崩壊・・・、なんていうことは本当によくあります。
よく、「すべての性感染症を防ぐ方法を教えてください」という質問を受けます。これはもっともな質問で、いくら個別の感染症について詳しく学んだとしても、聞いたことのない、そして軽症でない感染症にかかってしまった、というのでは意味がないからです。
最終回の今回は、具体的な感染症についてではなく、「どのようにすればトータルで感染予防ができるか」、についてお話したいと思います。
まず、「コンドームがあれば安心」という考えは捨てなければなりません。これまでの連載でみてきたように、コンドームをしていても完全に防げない感染症は、梅毒、HBV、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、ケジラミ、・・・、と少なくありません。また、「コンドームは常にしています」と言っている人でも、よく聞いてみると、オーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)のときにはしていない、という人が少なくありません。(クンニリングスには「デンタルダム」という女性器にかぶせるシートを用いてプロテクトする方法がありますが、日本ではほとんど売れないそうです)
コンドームは大変すぐれた性感染症を予防するグッズではありますが、完全に防ぐことはできません。また、破損するリスクや、ラテックスアレルギーのリスクもあります。やみくもに「コンドームがあれば安心」などと考えるのは危険なのです。
とはいえ、「どのようにすればトータルで感染予防ができるか」を考えたとき、コンドームは不可欠と言えます。すべての感染症を完全に防げるわけではありませんが、それでもコンドームなしの性交渉というのは危険性が飛躍的に高まります。
ここで、性感染症の重症度を考えてみましょう。感染しても適切な治療をおこなえば完治する感染症と、いったん感染すると人生を大きく変えてしまう感染症では重症度がまったく異なります。いったん感染すると人生を大きく変えてしまう感染症、言い換えると「命にかかわる感染症」となりますが、重要なのは、HBV、HCV(C型肝炎ウイルス)、HIVです。(これにHTLV-1を加えてもいいと思います。またアナルセックスをする人はHAV(A型肝炎ウイルス)も入れるべきでしょう)
これらのうち、HCV、HIV、HTLV-1はコンドームをしていればほぼ100%感染を防ぐことができます。(ただしオーラルセックスの際にも必要です) 一方、HBVとHAVはコンドームでは完全に防げません。しかしながら、この2つの感染症にはすぐれたワクチンがあります。ワクチンを接種して抗体をつくっておけば感染することはないのです。
HBV(とHAV)のワクチンを接種して、(オーラルセックスの際も含めて)コンドームを用いた性交渉をおこったとしても、粘膜と粘膜の接触で感染する感染症は完全に防ぐことができません。梅毒、性器ヘルペス、尖圭コンジローマあたりがその代表ですが、ではこれらはどのようにして防げばいいのでしょうか。
結論から言えば、これらを完全に防ぐ方法はありません。コンドームをすれば感染のリスクを大きく減らすことはできますが、完全ではありません。性器ヘルペスは症状の出ていないときにも感染させますし、梅毒や尖圭コンジローマは痛みも痒みもないために、発症していることに気付いていない人が多いのです。こういった感染症にも絶対にかかりたくない、というのであれば、セックスをやめる以外に方法がありません。
では、実際にはどのようにすればいいのでしょうか。後編でお話したいと思います。
(次回は11月15日掲載予定)