ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」
本当に怖いB型肝炎 その1
最近はHIVに対する関心が高まってきたようで、私が院長をつとめる太融寺町谷口医院にも毎日のように、「HIV感染が心配で・・・」というような方が来院されます。
たしかに、HIVに対し関心をもち、検査や予防をおこなうことは大切なことなのですが、我々医療従事者からすると、「ちょっと待って! B型肝炎対策はちゃんとできているの?」と尋ねたいことがしばしばあります。
前々回のコラムで、「フェラチオでB型肝炎ウイルスに感染することは珍しくないんですよ」ということをお話しましたが、実はB型肝炎ウイルスはディープキスで感染することもあります。これは、B型肝炎ウイルスは唾液にも含まれていることがあるからです。
B型肝炎はときに「死にいたる病」となります。感染後数週間で劇症化をきたし、命にかかわる状態になることもあります。劇症化まで進めば、命はとりとめられたとしても、後遺症を残し、例えば腎不全となり人工透析を生涯強いられるようなこともあります。
また、急性肝炎の状態を抜け出して回復したとしても、B型肝炎ウイルスのgenotype A型と呼ばれるタイプでは、何割かはウイルスが体内に残り慢性化すると言われています。こうなれば性交渉などで他人にうつしてしまう可能性もでてきます。さらに、慢性化すれば、強い薬をかなり長期に渡り服用しなければならない場合もあります。あまり知られていませんが、B型肝炎に使う薬の一部は逆転写酵素阻害剤といって、HIVの治療に使われることもあるものです。慢性化して肝臓の悪化が進行すれば、肝硬変や肝臓ガンになることもあります。
性感染症の予防ということで言えば、コンドームが最も有名ですが、これは主にHIVに主眼を置いたものです。「safer sex」といって、コンドームを使いましょうと叫ばれることが多いのは事実で、これはこれで大切なことではあるのですが、欧米人の「コンドームを用いれば重要な性感染症に罹患しない」という考え方をそのまま日本人に適応するには少し問題があります。
なぜなら、欧米人のほとんどは、幼少時に(遅くとも性交渉を開始するまでの年齢に)B型肝炎の予防接種(ワクチン)をしているからです。ディープキスでも感染しうる性感染症ですからできるだけ早期に予防接種をしておく必要があるのです。
B型肝炎ウイルスの予防接種は世界的には"常識"で、実際、先進国であればほとんどの国で国民全員を対象とした予防接種がおこなわれています。
例えば、お隣の韓国では、B型肝炎ウイルスの保有者(キャリア)が全国民の7~10%にも昇り、以前は「肝炎王国」とまで呼ばれていましたが、現在は国家政策として国民全員にワクチンを接種しています。(参考までに、韓国は少なくとも予防医学に関しては日本よりもはるかに進んでおり、2007年には麻疹(はしか)撲滅国としてWHO(世界保健機構)から正式に認められています。ちょうどその頃、麻疹がアウトブレイクした日本とは対照的です。)
先に進む前に、非常に大切なことなので韓国のB型肝炎事情についてもう少しだけ・・・
韓国でB型肝炎ウイルスの予防接種がおこなわれるようになったのは90年代半ばからで、対象は幼少児です。ですから、成人のなかにはB型肝炎ウイルスの保有者がかなりいると考えられます。日本のおじさんが韓国のsex workerからB型肝炎ウイルスに感染して数週間後に入院ということがときどきあるのですが、これは当分の間続くと考えられます。
B型肝炎ウイルス保有者が多いのは韓国だけではありません。中国やタイでも5~10%くらいはウイルス陽性であると言われています。だからこそ、海外駐在をおこなう人たちは、会社の負担でB型肝炎ウイルスの予防接種を海外赴任の前にしているのです。
ちなみに私は産業医という仕事もしていますが、海外赴任の前には必ずB型肝炎ウイルスの予防接種をするよう、赴任者にも会社にも助言しています。予防接種の対象者は、海外赴任者全員で、性別・年齢に関係なく、また未婚・既婚にも関係なく、です。日本人は男女とも、海外(特にアジア)に行くとハメを外してしまうことが多いのです・・・。
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日本人はフェラチオ好き(3)うがいにイソジンは使わない!
前回は、コンドームなしのフェラチオは、いくつかの性感染症のリスクがあり、「上手なフェラチオ」をしなければならないという話をしました。ここで言う「上手なフェラチオ」とは、セックスワークでいえば、"顧客にとっての"上手なフェラチオではなく、"自らの安全を守るための"上手なフェラチオです。
前回もコンドームなしのフェラチオをするときの注意点をいくつか述べましたが、今回は「うがい」についてお話したいと思います。
「うがい」について、最も大きな誤解は「イソジンを使ったうがい」です。
イソジン(ポピヨードガーグル)は、結論から言えば、「使わない方がいい!」のです。
これを意外に思う人がいるかもしれません。実際、医療の現場でも数年前までは「うがいにはイソジンを使いましょう」などと言っていたからです。(今でもイソジンでうがいをすすめている医療機関があるかもしれません)
ここで下のグラフ をご覧ください。

これはある研究チームがおこなった「風邪とうがいとの関係」を示したグラフです。縦軸は風邪にかかった人の割合で、横軸は日数です。
これをみると、ヨード(イソジン)でうがいをした人と、まったくうがいをしていない人は同じような割合で風邪をひいており、水でうがいをしている人が風邪をひきにくいという結果となっています。
これは一見、奇妙な結果に思えます。なぜなら水には殺菌力がなく、イソジンには強力な殺菌作用があることは明らかだからです。では、なぜ強力な殺菌作用を有するイソジンを使えば、病原体に感染するのでしょうか。
イソジンはたしかに強力な殺菌作用をもっています。実際、手術の現場では今でもイソジンの強力な殺菌力に期待して、メスをいれる皮膚にたっぷりと塗布します。しかし、その殺菌力が強すぎるがために、のどの正常な粘膜をも傷つける可能性があるのです。もともと人間ののどの粘膜にはある程度の自然防御力があります。そこにイソジンでうがいをおこなえば、その自然防御力を弱めてしまうことが考えられるのです。
実際、いつもイソジンでうがいをしているという人ののどを綿棒でこすって顕微鏡で観察してみると、軽い咽頭炎をおこしていることがよくあります。咽頭炎というのは分かりにくいと思いますが、分かりやすく言えば、「のどがあれている状態」となっているわけです。このようなのどに病原体が付着すれば簡単に住み着いてしまう可能性が高くなるというわけです。
実は、イソジンは手術を除けば最近では医療現場ではほとんど使われなくなってきています。外来にはイソジンをいっさいおかない、という医療機関も増えてきています。では、そういう医療機関では傷に対してどのような処置をしているかというと、「水で洗っている」のです。水は滅菌水や生理食塩水を使う必要はありません。水道水で充分!なのです。心配しなくても日本の水道水は厳しい試験に合格しており、水道水を使ったがために病原体に感染するということはありません。
うがいも同じです。イソジンではなく水で何度もうがいをするのが最も効果的なのです。
最後にもうひとつ! のどの性感染症は自覚症状が出にくいのが特徴です。もしもあなたが複数のパートナーと交際していたり、セックスワークに従事していたりするのであれば、 定期的な検査を受けることが必要です。ほとんどの病気がそうであるように、のども含めて性感染症の場合も早期発見が何よりも大切なことなのです。