ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」

本当に怖いB型肝炎 その3

 B型肝炎感染対策について具体的に考えていきましょう。

 まずはあなたが現在B型肝炎ウイルスを保有していないかどうか調べることから始めなければなりません。HIVや梅毒と同様、自治体によっては保健所などで、無料で調べることができる地域があります。もしも保健所などで無料検査ができなければ医療機関を受診すれば調べることができます。(ただし医療機関では有料となりますし、通常健康保険は使えません)

 性的なパートナーがいれば、カップルで検査をするのがいいでしょう。もしもあなたが(あるいは相手が)B型肝炎ウイルスをもっていればどうすればいいでしょうか。

 B型肝炎ウイルスをもっている(あるいはもっている可能性がある)場合は、医療機関で精密検査を受けることになります。通常ここからは健康保険が使えます。そして、治療が必要な状態かどうかを調べて必要であれば治療を開始することになります。

 もしもあなたのパートナーがウイルスを持っていればどのようにすればいいでしょうか。もちろん別れる必要はありません。愛が感染症なんかに負けるはずがないのです!

 その場合、予防接種をすればいいのです。予防接種をして抗体を形成すれば生涯B型肝炎ウイルスに罹患することはないのです。

 ふたりともB型肝炎ウイルスを持っていない場合や、ひとりで検査をしてかかっていないことが判った場合も予防接種をすることが薦められます。

 太融寺町谷口医院にもB型肝炎ウイルスの予防接種を受けに来る方がおられます。ここで興味深いデータをご紹介しましょう。B型肝炎ウイルスの予防接種は、おこなう前に、「現在かかっていないこと」と「抗体がないこと」を確認しなければなりません。抗体がすでにあれば、B型肝炎にはかかりませんから、当然ワクチン接種は必要ありません。ですから、ワクチン接種をする前には必ず抗体検査をおこなうのですが、太融寺町谷口医院のデータでは、ワクチン希望者の6.4%がすでに抗体を持っていました。

 これは、「性感染などによって知らないうちにB型肝炎ウイルスに感染して、知らない間に抗体が形成されていた」ことを示しています。実際、これら6.4%の患者さんに尋ねてみると、何割かの人は、「そういえば数年前に原因不明の倦怠感におそわれて診断がつかなかった・・・」と答えます。こういう人たちは、感染した事実はあるものの、病状がでなかったか、でたとしても一過性のものであり、結果として抗体が形成されたわけですから大変幸運だったということになります。言わば、無料で(しんどい思いはされたでしょうが)天然のワクチンを手に入れたようなものだからです。

 B型肝炎ウイルスにかかっておらず、抗体もなければ、ワクチン接種を開始することになります。ワクチン接種の回数は2~3回で、およその基準としては25歳くらいまでの若年者であれば2回、それ以上の年齢であれば3回接種することになります。B型肝炎ウイルスのワクチンは、若ければ若いほど、そして男性よりも女性の方が早く抗体ができやすいという特徴があります。

 ワクチンというのは病原体によって様々で、例えばインフルエンザであれば毎年接種する必要があります。一方、麻疹(はしか)や風疹は一度抗体が形成されれば生涯もつと言われています。B型肝炎ウイルスは、麻疹などと同様、一度抗体形成が確認されればその後の追加接種は不要です。(以前は、抗体形成から数年後に再検査をおこない抗体が消えていれば追加接種が必要と考えられていましたが、最近の考え方では、たとえ検査で抗体が消えていても追加接種は不要とされています)

 最後にB型肝炎ウイルスの特徴についてまとめておきましょう。

① 感染力はきわめて強く、コンドームを用いても防げないことがある。
② 感染すると短期間で命にかかわる状態になることもあり(劇症化)、また慢性化すると長期で薬を飲まなければならないこともある。
③ B型肝炎が進行すると、肝硬変や肝臓ガンになることもある。
④ 予防接種(ワクチン)が最善の予防策で、一度抗体が形成されると感染しない。
⑤ 知らない間にかかって知らない間に治って抗体が自然にできていることもある。


 性感染症の予防にコンドームを・・・。これはこれで大切なことですが、その前に考えなければならないことがあるということがお分かりいただけたでしょうか。

本当に怖いB型肝炎 その2

 さて、では日本ではどれくらいの人がB型肝炎ウイルスを保有しているかというと、だいたい国民の1%程度、総数で120万人から150万人くらいであろうと言われています。HIV陽性者が累積でおよそ1万5千人ですから、単純計算で約100倍です。

 また、感染力の強さもHIVとは桁違い!です。性感染での比較データというのは(私の知る限りでは)ないのですが、医療従事者の針刺し事故のデータでは、HIV陽性者の針刺し事故を起こした場合約0.3%が感染するのに対し、B型肝炎ウイルスでは約30%が感染すると言われています。B型肝炎ウイルスはHIVよりも100倍も感染力が強いということになります。(参考までにC型肝炎ウイルスは約3%と言われています。ちょうど一桁ずつ違うところが興味深いですね)

 ここで誤解のないように言っておくと、現在では日本も含めて医療従事者の全員がB型肝炎ウイルスの予防接種をしています。ですから、医療従事者が患者さんからB型肝炎ウイルスがうつるということは現在ではまずありません。また、医療従事者以外でB型肝炎ウイルスの予防接種をしている職種は、前回お話した海外駐在員の他、葬儀屋やフライトアテンダント(全員ではありませんが)などです。(本来真っ先に接種すべきsex workerのワクチン接種率は残念ながら高くはありません・・・)

 これらの数字だけを見ても、HIVよりもB型肝炎ウイルスの対策をしっかりしなければならないことがお分かりいただけると思います。B型肝炎ウイルスはHIVに比べて、日本では感染者が約100倍で、感染力もおよそ100倍です。(ただし、B型肝炎ウイルスの保有者は高齢者にも多く、HIVは圧倒的に若年者に多いですから、完全に単純比較することには少し問題があります)

 B型肝炎ウイルスは、HIVと同様、母子感染があります。ワクチン接種にはなぜか消極的な日本でも母子感染対策はしっかりとおこなっています。妊婦検診の際にB型肝炎ウイルスを持っているかどうかを調べて、妊婦さんがウイルスを持っている場合、新生児には免疫グロブリンとワクチンを接種して母子感染を防ぐことができます。

 この母子感染対策は80年代の半ばくらいから徹底されるようになりましたから、だいたい現在25歳未満の人であれば、お母さんからウイルスをもらっているということはほとんどないということになります。

 ところが、です。実際には若年者の間にもB型肝炎ウイルスを持っている人がいます。性感染という場合もあるでしょうが、それ以上に考えなければならないのが、幼少時の感染です。

 昨年(2007年)に、大阪府立急性期・総合医療センターと名古屋市立大の研究チームが発表した報告によりますと、B型肝炎ウイルスの遺伝子解析をおこなった結果、日本人のB型肝炎ウイルス保有者の約10%が父子感染であることが判りました。これは、父親と子供が性交渉しているという意味ではもちろんありません。おそらく、傷の手当とか食べ物の口移しとかいったことで感染していることが予想されます。

 したがって、現在では、「家族にひとりでもB型肝炎ウイルスの保有者がいれば残りの家族は全員予防接種をするべき」と考えられています。

 もちろん、傷の手当で感染の可能性があるのは父親と子供の関係だけではありません。記憶に新しいところで言えば、2008年6月におきた秋葉原の連続通り魔事件で、犠牲者のひとりがB型肝炎ウイルスを持っていることが判りました。このため、救護に関与した全員がB型肝炎ウイルスの検査をすることになったのです。

 また、2008年5月におきた中国四川省の大地震では、中国政府が被災者に対しB型肝炎ウイルスのワクチン接種を開始したと報道されています。これは、被災地ではレイプが横行しやすいという問題もありますが、それ以上に怪我の手当てをしたりされたりする機会が増えるからです。(欧米諸国のように国民全員が幼少時にワクチン接種をしていればこのような心配はないわけです)

 次回は、実際にB型肝炎ウイルスにかからないためにはどうすればいいかについて考えていきたいと思います。

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プロフィール

医師。NPO法人GINA(ジーナ)代表。
太融寺町谷口医院(11月1日に「すてらめいとクリニック」から名称変更)院長。大阪市立大学医学部非常勤講師。著書に『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』(文芸社)など。