ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」
性器ヘルペスに悩まないで! その1
今回はまず、以前に私が診察した症例をご紹介しましょう。(ただし、実際の患者さんとは年齢・職業などを含めてアレンジを加えています。似たような人があなたの周りにいたとしてもそれは偶然にすぎないということをお断りしておきます)
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【症例 Aさん(29歳女性)】
3日前から外陰部にピリピリとした痛みがあります。何かにかぶれたのかなと思って放っておくと、昨日はすごく身体がだるくなり微熱もあるような気がしました。またの付け根が腫れてきているようで、今日になりその痛みが強くなってきました。外陰部の痛みも強くなり鏡を使って観察してみると赤くただれています。歩くのも苦痛になってきたためこれ以上放っておけないと思って受診することにしました。
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百聞は一見にしかず、です。このような症例は見ればそれだけで診断がつくことがあります。私は外陰部の皮疹をみた瞬間にそれが性器ヘルペスであることを確診しました。またの付け根の腫れ(両側鼠径部リンパ節腫脹)や発熱も性器ヘルペスの初発ではよくあることです。
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私 「あなたの病気は性器ヘルペスに間違いありません。何か思い当たることはありますか」
Aさん 「性器ヘルペスって・・・。わたしは彼氏としかセックスをしていませんし、彼氏がそんな性病をもっているなんて聞いたことがありません。それにコンドームは必ずしているんですよ!」
私 「分かりました。どのように感染したかはおいおい考えることにして、先にヘルペスウイルスを退治して、同時に痛みも取りましょう。薬を5日間飲んでください。飲み終わる頃にまた来てください。それから、彼氏にこれまでにヘルペスにかかったことがないかもう一度聞いておいてください。ヘルペスは性器以外にもできますからそのあたりも聞いておいてくださいね」
一週間後・・・。
私 「症状はどうですか」
Aさん 「はい。薬を飲んだ翌日から症状がおさまってきて、今ではほとんどありません。あの薬、よく効くんですね。先生、わたしの病気は本当に性器ヘルペスなんですか。彼氏は性器ヘルペスになんかなったことがないって言ってましたよ。ただ・・・」
私 「ただ・・・、何ですか」
Aさん 「ときどき口の周りにヘルペスができるとは言ってました。けど先生、ここ1年間くらいはそれもなかったと彼は言っているんです。わたしの性器ヘルペスは彼の口からうつったんですか」
私 「その可能性は高いと思いますが、そう断定できるわけでもありません。彼氏以外との性交渉はないとおっしゃいましたね。では、その彼とお付き合いされる前に別の男性と交際されたことはないですか」
Aさん 「学生の頃に一度だけあります。けどその男性からも性器ヘルペスなんて聞いたことはありませんし、3年ほど付き合いましたけど口の周りのブツブツなんて見たことがありません」
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さて、Aさんの性器ヘルペスはいったいどのように感染したのでしょうか。Aさんは大手印刷会社に勤務するOLで、以前から風邪や湿疹などで私のところに何度か通院されています。私との間には、ある程度の信頼関係もあり、私に嘘を言っているようには到底思えません。
おそらくAさんは現在お付き合いをされている「彼氏」から感染しているものと思われます。では、なぜ性器ヘルペスを発症したことがなく、口唇ヘルペスは発症したことはあるもののAさんと性交渉をおこなうときには症状はなかったその「彼氏」から感染したのでしょうか。
Aさんの話では、「彼氏」との性交渉にはいわゆる"クンニリングス(cunnilingus)"はあったそうです。おそらくこの行為で「彼氏」の口元に存在していたヘルペスウイルスがAさんの性器に感染したのでしょう。
では、「彼氏」には口唇ヘルペスの症状がなかったのにもかかわらずヘルペスウイルスがAさんに感染したのはなぜなのでしょうか。
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増え続ける梅毒 その3
前回は、梅毒の実際の感染者は報告数よりもはるかに多いんですよ、という話をしました。では、実際のところ、どれくらいの人が梅毒に感染しているのかを考えていきましょう。
まず、梅毒の感染者がHIVよりも少ないなどということはありえません。HIVと異なり、梅毒は感染力が強く、オーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)でも感染します。外陰部やペニスの根元に病変があることもありますから、コンドームをしていても完全に防ぐことはできません。また手や足に病変ができることもあり、この場合も痛みや痒みがないために患者さんが気にしていないことが多く、こういう人の手足に接触しても感染する可能性もあります。
日本では、HIV感染は男性同性愛者に多いという特徴がありますが、梅毒は必ずしもそうではありません。おそらく全体の統計で言えば、梅毒も男性同性愛者が最多だとは思いますが、女性の感染者も、女性から感染した男性の感染者も珍しくはありません。実際、私が院長をつとめる太融寺町谷口医院でも、女性や男性の異性愛者から梅毒がみつかることは珍しくありません。
私の印象でいえば、梅毒の感染者は少なく見積もってもHIV感染者の2倍にはなると思います。つまり、最低でも年間3千人程度は梅毒に新規で感染していると考えるべきだと私は思っています。さらに、感染して数年間が経過しているけれども自身の感染に気づいていない、という人を加えると数万人に上るのではないかと思われます。
さて、増えている梅毒のなかで、大変気になることがあります。それは、母子感染による先天梅毒が増えているということです。先天梅毒の小児患者報告数は、1999年以降、2006年の10例が最多でしたが、2008年は8月27日の時点ですでに7例の報告があり、国立感染症研究所は「増加が懸念される」と述べています。
先天梅毒が増えているというのは極めて奇異なことです。なぜなら妊婦さんは通常妊婦検診で梅毒の検査をおこなうからです。もしも妊婦さんに梅毒感染が見つかれば母子感染を防ぐような治療をおこないますから先天梅毒はありえません。にもかかわらず先天梅毒が発生し、しかも増加しているのは、おそらく「妊婦検診の後で感染している」ことが考えられます。また、梅毒の検査は、感染してから4週間程度経過しないとわかりませんから、このことが原因かもしれません。もしも今後も母子感染が増加するなら、妊婦検診の梅毒検査は、妊娠前期と後期の2回おこないましょう、ということになるかもしれません。
梅毒は、以前は「死に至る病」でありましたし、母子感染で先天梅毒が発症すると奇形となることもあります。しかしながら、現在は有効な抗生物質がありますから、ちょっと乱暴な言い方をすれば「かかっても怖くない!」病気です。以前、ゲイの性感染症予防に携わっている人から次のような言葉を聞いたことがあります。
「HIVやB型・C型肝炎はなんとしても防がなければならない感染症。だけど、梅毒は命をかけて予防しなければならない感染症ではないと考えています。だって完全に治るんですから・・・」
この言葉は私にとって印象深いものでした。すべての性感染症を必要以上に恐れていればセックスができなくなるかもしれません。やはり正しい知識をもって正しい予防をおこなうことが大切なのです。
梅毒の治療はいたって簡単です。抗生物質を飲むだけです。日本では、1ヶ月程度抗生物質を内服するのが標準的な治療です。参考までに、海外では注射を使って数日間で治します。私はなぜ日本の治療が世界の標準的な治療と異なっているのかを不思議に思っています。ただし、時間はかかるものの1ヶ月間の抗生物質の内服でまず治りますし、もし1ヶ月で治っていなければ抗生物質を変更すれば通常は治ります。抗生物質が効かずに梅毒が何年も治らない・・・、などということはありません。
最後に梅毒をまとめておきましょう。
1.以前は「死に至る病」であり世界中で恐れられていたが、現在は「治る病気」である。
2.ただし感染力は強く、コンドームを使っても防ぎきれない。
3.症状は皮膚症状が中心だが痛み・痒みがなく気づかれないことも多い。したがって、気になることがあれば検査を受けるべき。
4.新しい彼氏(彼女)ができたときや結婚前、妊娠前には検査を受けるべき。
5.妊婦さんは特に感染に注意が必要。
6.治療は抗生物質を1ヶ月程度内服する。