ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」

淋病の治療が変わります! その1

 淋病(りんびょう)というのは、ありふれた病気ではあるのですが、ときに治療に困ることがあります。

 しかし、新薬の登場で比較的簡単に治る感染症となることが期待できるかもしれません。今回はその新しい淋病の治療についてお話したいと思いますが、その前に、ときに厄介なこの病気についておさらいをしておきます。

 まず、淋病というのは、そのほとんどが性感染症です。性的接触によって、男性から女性、女性から男性、あるいは男性から男性、女性から女性にも感染します。"性的接触"というものにはいろいろあり、腟交渉(腟性交)、肛門性交、オーラルセックス(フェラチオ(fellatio)及びクンニリングス(cunnilingus))などを通して感染することが多いのですが、ディープキスでうつることもあります。

 感染力は比較的強く、また症状が比較的出にくいことから、「何らかの症状があるから検査をする」ではなく、「リスクのある行為があったから検査をする」のが賢明です。以前は、男性の淋病(淋菌性尿道炎)と言えば、尿道口から膿(うみ)がでてきて排尿時には痛みが出ることが多かったのですが、最近ではまったく症状のない淋菌性尿道炎もまあまああります。

 男性の淋菌性尿道炎は、腟交渉ではなく、オーラルセックス(フェラチオ)で感染していることが圧倒的に多いと言えます。ときどき、腟交渉では感染するけどオーラルセックスでは感染しない、と思っている人がいますがこれは大間違いです。また、女性の淋菌性尿道炎はない、と思っている人がいますがこれも間違いです。女性の尿道炎や膀胱炎が治りにくかったり、症状が強かったりする場合、性的接触があれば淋病を疑う必要があります。

 女性の淋菌性子宮頚管炎は、8割から9割くらいはまったくの無症状です。よほど重症化するとおりものが緑っぽくなったりイヤな臭いがしたりすることもありますが、それほど多いわけではありません。ですから、不特定多数(もしくは特定多数)の性的パートナーがいるような人は、知らない間に何人もの男性に淋菌をうつしているかもしれません。

 男女とも、のど(咽頭)に感染するとほとんどが無症状です。かなり重症化して初めて症状がでますが、普通の咽頭炎とは異なり熱が出たり痛みがでたりすることはほとんどなく、「声が出にくくなる」という人がときどきいる程度です。また、男女とも肛門に感染するとほぼ全員が無症状です。

 結局のところ、どこに感染しても無症状の場合がまあまああるわけで、性的接触があり淋菌感染の可能性があると考えるなら、可能性のある部位すべてを検査しなければならないというわけです。

 ただ、淋病の検査というのは比較的簡単にできます。検査方法にもよりますが、例えば顕微鏡を使った検査であれば数分で結果が分かります。淋菌は特徴的なかたちをしているために特殊な染色をして顕微鏡で観察すればその場で発見できるのです。(実際の顕微鏡の写真を2枚ほど下にお示しいたします)

 しかも、現在の保険システムでは、1箇所だけ(例えば子宮頸部だけ)検査をしようが、3箇所(例えば、子宮頸部+咽頭+肛門)の検査をしようが料金は同じです。ですから、診察時には感染している可能性のある部位をすべて医師に伝えることが必要です。(*1)



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写真1 30代女性(セックスワーカー)の淋菌性咽頭炎。写真に広く分布しているのが好中球と呼ばれる白血球で、淋菌は写真左上の方に、その好中球に貪食されている(食べられている)像が見られます。淋菌は真ん丸い形をしておりペアで存在しています(「双球菌」と言います)。この患者さんはまったくの無症状でした。



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写真2 20代女性の淋菌性子宮頚管炎です。写真の左側に2箇所ほど淋菌が密集した部分があります。この女性は咽頭にも淋菌が見つかり、さらにパートナーの男性も淋菌性尿道炎を起こしていました。



注1:淋病の検査は、上に述べたように顕微鏡で直接淋菌を確認する方法の他にも、いくつかの検査法があります。検査法によって結果がでるまでにどれくらいの時間がかかるかが変わってきますので、詳しくは各医療機関にお問い合わせください。

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性器ヘルペスに悩まないで! その4

 さて、性器ヘルペスに罹患すれば、ウイルスは一生消えることはなく、再発のおそれは常にあり、さらに症状が出ていなくても他人に感染させる可能性があります。その上、コンドームもあまり役に立ちません。患者さんのなかには、「じゃああたしは一生誰ともセックスできないの・・・」と考えてしまう人がいます。

 しかし、そうではありません。性器ヘルペスは誰もが感染する可能性のある感染症ですし、Aさんのように口唇ヘルペスにかかったことのある交際相手からうつることもよくあることです。

 性器ヘルペスにかかってしまったら、そのときは「これからは体調管理に気をつけよう。ヘルペスが再発すれば心身の調子がよくないっていう合図なのね」、というくらいに思うのがいいと私は考えています。

 そもそもヘルペスウイルスを保有している日本人は決して少なくなく、文献にもよりますがだいたい日本人の40~70%くらいはヘルペスウイルスを持っていると言われています。つまり、国民の2人に1人はこのウイルスを持っているのです。そして、性交渉などを介して他人にうつす可能性は決して低くないのです。

 参考までに、一昔前にはヘルペスウイルスを1型と2型に分けて考えることがありました。口唇ヘルペスは1型、性器ヘルペスは2型、というものです。現在でも遺伝子レベルの検査をおこなえば1型か2型かの鑑別はできますが、現実的にはあまり意味がありません。Aさんのようにオーラルセックスで口唇から性器に感染ということが珍しくないからです。もちろん、性器から口唇にうつることもよくあります。

 話を戻しましょう。1型もしくは2型のヘルペスウイルスを保有している日本人はおよそ2人に1人であって、(自慢する類のものでもありませんが)ヘルペスウイルスを持っていることはなんら恥ずかしいことではないのです。

 もしもあなたがヘルペスウイルスを持っていて、新しい彼氏(彼女)ができたとしましょう。そのときには、こう言えばいいのです。

「あたしはヘルペスにかかったことがあるの。ヘルペスは症状が出ていないときにもセックスでうつることがあるから、あなたにもうつしてしまうかもしれないの。ヘルペスの再発は身体の不調だけじゃなくって精神的にしんどいときにも起こりやすいから、あたしに心配をかけないでね・・・」

 最後にひとつ、ヘルペスの注意点を述べておきます。これまで、ヘルペスウイルスは多くの人が持っていてささいなことで感染しうること、再発を繰り返すこともあるけれども症状は軽症であること、などをお話してきました。「なんだ、ヘルペスって全然怖くないんだな・・・」と思われたかもしれませんが、絶対に感染させてはいけないケースがあります。

 それは生まれてくる赤ちゃんに感染させる母子感染です。妊婦さんが出産時に性器ヘルペスを発症させていれば原則として経腟分娩はできません。この場合帝王切開での出産となります。ヘルペスウイルスは大人に感染してもたいした症状はでませんが、新生児に感染した場合は、ときに命にかかわる状態となりかねません。ヘルペスウイルスが髄膜や脳にまで広がることがあるのです。

 また、生まれてくる赤ちゃんだけではなく、乳幼児のヘルペス感染は放っておくと、ときに重症化することがありますから、乳幼児の身体のどこかに水泡や発赤ができれば早い段階で医療機関を受診すべきです。私の経験で言えば、ヘルペス性の口内炎でなかなか熱が下がらずに入院となった赤ちゃんを診察したことがあります。この例では、親御さんが単なる口内炎と考えて受診が遅れていました。

 最後に性器ヘルペスをまとめておきましょう。

①性器ヘルペスは、口唇など性器以外の部位から感染することも多い。
②性器ヘルペスの予防にコンドームはあまり役に立たない。
③ヘルペスウイルスに感染すると一生ウイルスは体内から消えない。
④いったんヘルペスウイルスに感染すると再発の可能性はいつもある。
⑤ヘルペスウイルスに感染すると、再発していないときにも他人にうつすことがある。
⑥身体や精神の不調があると性器ヘルペスを再発しやすい。
⑦再発を防ぐことに気をつけると他人に感染させる可能性を低減できる。
⑧再発防止には、体調管理と共に「再発すればすぐに治療」を守ることが大切。
⑨ヘルペスウイルスを持っているからといってセックスできないわけでは決してない。
⑩新生児や乳児への感染には注意が必要。

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プロフィール

医師。NPO法人GINA(ジーナ)代表。
太融寺町谷口医院(11月1日に「すてらめいとクリニック」から名称変更)院長。大阪市立大学医学部非常勤講師。著書に『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』(文芸社)など。