ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」

悩ましき尖圭コンジローマ その1

 この病気ってほんとに精神的にしんどくなりますね・・・

 こんなに時間がかかる病気とは知りませんでした・・・

 あたしはいつになったら再発の不安から解放されるのでしょうか・・・

 これら3つの声は、いずれも尖圭(せんけい)コンジローマに罹患した患者さんのものです。一言で「性感染症」と言っても実にいろいろなものがあり、数回塗り薬を塗ればそれで終わるものから、生涯にわたりお付き合いしなければならないものまで様々です。

 今回お話する尖圭コンジローマという病気は、生涯にわたり付き合わなければならない、ということはありませんが、数週間から、長ければ数ヶ月にわたり治療(それも場合によっては痛みの伴う治療)をおこなわなければならないことがあり、さらに治ったとしても、しばらくの間は「再発するかもしれない」という状況が続く感染症です。

 患者さんの立場に立てば、冒頭で紹介したようなホンネが出てくるのは当然のことでしょう。

 では、このやっかいな尖圭コンジローマという病気についてご紹介していきましょう。

 尖圭コンジローマとは、一言で言えば「性器にできるイボ」です。通常は痛みも痒みもありません。治療についてお話する前にまずは病名について説明いたします。

「尖圭コンジローマ」という病名は、一部の出版物やウェブサイトには「コンジローマ」ではなく「コンジローム」と書かれているものがあります。病名にこだわる必要はないのですが、最近では「コンジローマ」で統一される方向にあります。参考までに、この「~ーマ」というのは「腫瘍」という意味で、皮膚ガンで最もやっかいな悪性黒色腫は「マリグナント・メラノーマ」と言いますし、インスリンを過剰に分泌する膵臓にできる腫瘍のことは「インスリノーマ」と言います。

 尖圭コンジローマも「~ーマ」という病名が付いているわけですから、「腫瘍」ということになります。ときどき、「腫瘍です」というと「えっ、ガンってことですか」と言われる患者さんがいますが、腫瘍のすべてがガンではありません。悪性腫瘍はガンという言い方ができますが、尖圭コンジローマは悪性腫瘍ではなく良性腫瘍です。

「良性腫瘍」という言葉も馴染みがないかもしれませんので少し説明を加えておきます。「悪性腫瘍」に対して「良性腫瘍」という言い方をするのですが、「悪性腫瘍」というのは放っておくとどんどん進展していき身体のあちこちに転移をし、やがて死に至ります。ですから、原則として「悪性腫瘍」に罹患すれば、手術や放射線療法、化学療法などを駆使して治療をおこなわなければなりません。もしも悪性腫瘍に罹患しているのに治療をしないという選択肢を選ぶとすれば、それは死を受け入れたことを意味します。

 それに対して良性腫瘍というのは、急激に広がるわけではなく必ずしも治療しなければならないというわけではありません。実際、何らかの良性腫瘍がみつかり、医療機関を受診して「これは良性腫瘍ですから経過観察は必要ですが必ずしも取らなければならないわけではありません」と言われた経験のある人は少なくないでしょう。よくあるのが、皮膚の良性腫瘍(軟線維腫や後天性色素細胞母斑(ホクロのこと))、また人間ドックでよく見つかるのが肝臓の血管腫です。

 しかし、尖圭コンジローマも良性腫瘍だから治療せずに経過観察だけでいいのかというと、そういうわけではありません。尖圭コンジローマは良性腫瘍ではありますが、診断されると原則として治療しなければなりません。(ただし、尖圭コンジローマの一部は、放置しておくと自然治癒する場合もあります)

 なぜ治療しなければならないかというと、自然治癒はそれほど多くの症例で期待できるわけではありませんし、イボそのものがごく小さなものであったとしても他人に感染させる可能性があるからです。感染させるのは、もちろん「性交渉を通して」です。性的接触以外で感染することはほとんどないと考えていいでしょう。

 名前について、もうひとつだけ注意点があります。尖圭コンジローマと似たような病気の名前に「扁平コンジローマ」というものがあります。扁平コンジローマと尖圭コンジローマはまったく異なる病気で、扁平コンジローマは梅毒に罹患したときに発症するものです。後で詳しく述べますが、扁平コンジローマと尖圭コンジローマは治療法がまったく異なりますから診断には充分な注意が必要です。

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淋病の治療が変わります! その2

さて、淋菌感染が判れば治療を開始することになるわけですが、これまで淋病の治療には少々苦労することがありました。

 というのは、飲み薬の抗生物質では治らないことがまあまああるからです。点滴をすれば比較的短期間で治るのですが、すぐに点滴をおこなえば保険診療が認められないことがあるのです。飲み薬の抗生物質を飲んで治らなかったときに初めて点滴をしてもいいと考えられているというわけです。

 しかし、実際には淋病は飲み薬では治らないことが多く、日本性感染症学会のガイドラインには、「内服薬は無効例が多いので点滴もしくは注射が(初めから)必要である」という旨が記されています。にもかかわらず、淋病の診断がついたからといってすぐに点滴をおこなえば「過剰診療」とみなされ、保険診療が認められなくなってしまうことがあるのです。(淋病に限らず、ガイドラインどおりに検査や治療をおこなうと保険診療が認められないケースというのはよくあります・・・)

 ただし、飲み薬のみでも、男性の淋菌性尿道炎であれば(私の経験で言えば)9割以上の確率で治ります。(ただ、理由は分かりませんが、外国人から感染した場合や同性愛者の場合は治りにくいような印象があります) 一方、女性の淋菌性子宮頚管炎は飲み薬だけでは治らないケースがけっこう多いように思われます。また、男女問わず咽頭や肛門感染の場合は、飲み薬だけでは治らないことがしばしばあります。

 飲み薬で治らなければ点滴というかたちになるわけですが、いくら症状がない(もしくは軽度)といっても、このような病気は一刻も早く治してしまいたいものです。

 さて、今回のメインのお話は、「その淋病に画期的な飲み薬が誕生した!」というものです。ファイザー製薬から2009年4月6日に発売された「ジスロマックSR」という薬は、1回飲むだけで淋病が治ることが期待できます。「ジスロマック」は、これまでも錠剤タイプのものはあったのですが、これは淋病には適応がありませんでした。(「適応がない」というのは淋病に対して保険を使って処方できないという意味です。また、たとえ(保険外で)淋病に錠剤タイプのジスロマックを使ったとしても治らないことの方が多いと思われます)

 新しい「ジスロマックSR」はドライシロップが瓶に入っていて、そこに水をいれて飲みます。これまでの錠剤型のジスロマックに比べると、有効成分の量が倍で、実際の効果は倍以上であるとも言われています。また錠剤型のジスロマックはクラミジア感染症に対しては保険適応がありますが、治らないケースも最近はまあまあ増えてきており、淋病だけでなくクラミジアに対してもジスロマックSRの登場が待ち望まれていました。

 実際には、淋菌とクラミジアの両方に感染している患者さんは大勢います。そういったケースでは、これまでは淋病とクラミジアの治療を別々にしなければならなかったのですが、これからはジスロマックSRで両方同時に治せるというわけです。

 ただし、理論は理論であって現実とは異なるかもしれません。淋病やクラミジアを含めて性感染症というのは、元々自覚症状に乏しいケースがほとんどですから、治ったかどうか(菌が消えたかどうか)の確認を必ずしなければなりません。ジスロマックSRに期待しすぎて、「飲んだから治っているだろう」と考えるのは禁物です。

 よくあるのが、(特に男性で)症状がとれたから治っているだろうと早合点するケースです。「症状がとれた」と「菌が消滅した」とは同じではありません。実際には治っていないのに患者さんは治っていると思い込み"大切な人"にうつしてしまった、ということは本当によくあります。

 ジスロマックSRはたしかに画期的な新薬ではありますが、期待しすぎにも要注意というわけです。

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プロフィール

医師。NPO法人GINA(ジーナ)代表。
太融寺町谷口医院(11月1日に「すてらめいとクリニック」から名称変更)院長。大阪市立大学医学部非常勤講師。著書に『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』(文芸社)など。