ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」
悩ましき尖圭コンジローマ その3
前回少しお話しましたように、尖圭コンジローマの病原体はHPVと呼ばれるウイルスです。HPVというのはヒトパピローマウイルス(human papilloma virus)のことで、100種類以上の亜型(サブタイプ)があることが分かっています。一部のHPVは子宮頚ガンの原因ウイルスであることはよく知られています。例えば、子宮頚ガンをきたす代表的なHPVは、HPVの16型と18型で、尖圭コンジローマをきたすHPVの代表は6型と11型です。ただし、どちらの原因にもなりうるHPVの型もあります。
子宮頚ガンについては、いずれこのウェブサイトでも述べようと思いますが、すでにワクチンが開発されています。日本ではまだ認可されていませんが、世界100カ国以上で実用化されており、ワクチンでほぼ100%防ぐことができると言われています。子宮頚ガンのワクチンは複数の製薬会社で開発されており、一部は尖圭コンジローマをも防ぐことができる可能性があると言われています。(ただし、日本では未認可ですから現時点ではワクチンに期待することはできません)
潜伏期間についてお話しましょう。性感染症というのは、ほとんどが自覚症状が出にくいものですから、危険な行為があってからどれくらいで発生するのかという点については注意しておく必要があります。この「どれくらいたてば検査できるか」については感染症ごとに違っており、例えば、クラミジアなら1~3週間程度、淋病なら2,3日から1週間程度、HIVなら2か月程度、といったように病原体ごとにだいたい決まっています。
ところが、尖圭コンジローマの場合は、早ければ1週間程度で出現しますが、長ければ数ヶ月以上と言われています。私が診察した症例では、(患者さんの話していることが正しければ)、感染して数年たって初めて症状が出現したとしか考えられないケースもあります。
このように、感染して(感染の機会があって)数年後に発症、となると、一度でもリスクのある性的接触があればその後何年も発症しないかどうか不安に思わなくてはならないということになってしまいます。(ただしこのように、感染数年後に、というのはごく稀な場合と考えて差し支えないと思われます)
尖圭コンジローマに罹患していないかどうかはどのように調べるのかについてお話いたします。
通常は、視診だけで診断します。要するに"見ればわかる"というわけです。ただし、本当にすべての尖圭コンジローマが"見ればわかる"のかと問われれば、なかには診断に悩む症例があるのも事実です。というのは、いつもいつも典型的なイボの状態を呈するとは限らないからです。
尖圭コンジローマのイボは、「トサカ状」とか「カリフラワー状」と呼ばれることがあります。ホクロのような丸くて表面が平滑なできものではなく、表面がザラザラで、左右非対称で、イボの一部が出っ張っていることもありますし、複数あるときは形も大きさも様々なイボになります。一言で言えば「不均一なキタナい感じのするイボ」です。また、あまりに大きかったり数が多かったりすれば、独特の悪臭があります。少しの刺激で出血することもあります。
このような典型例であれば、医師であれば見た瞬間にそれが尖圭コンジローマであることを確信できます。問題は、典型例でない場合です。陰茎や外陰部にイボがあるけども、典型的な尖圭コンジローマとは断定できない・・・。このような場合には安易に尖圭コンジローマと決め付けてはいけません。
<続きはコチラ>
悩ましき尖圭コンジローマ その2
感染経路について説明いたします。尖圭コンジローマが感染するのは、通常は外性器と外性器の接触です。クラミジアや淋病といった尿道炎や子宮頚管炎はオーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)で簡単に感染しますし、B型肝炎や梅毒、あるいはHIVなどもオーラルセックスでうつることがあります。しかし、尖圭コンジローマはほとんどが外性器と外性器の接触です。
"接触"というのは、なにもペニスを腟や肛門に挿入したときだけという意味ではありません。風俗店でいうところのいわゆる「スマタ」でも充分に感染します。尖圭コンジローマは基本的には性感染症のひとつですが、正確に言うと(粘膜も含めた)皮膚と皮膚との接触によります。ですからなにも「挿入」がないとうつらないというわけではありません。
また、皮膚と皮膚との接触ですから、コンドームを使用していたとしても完全に感染を防ぐことはできません。なぜなら、コンドームに覆われないペニスの根元にはできることがあるからです。実際、男性のペニスの根元付近の尖圭コンジローマが女性の外陰部に感染することはよくありますし、もちろんその逆に女性の外陰部からペニスの根元にうつることもあります。つまり、尖圭コンジローマはコンドームで完全に防ぐことのできない性感染症なのです。
尖圭コンジローマが起こる部位は、男性であれば陰茎が圧倒的に多く、陰嚢にできることはあまりありません。ただし、肛門は要注意です。男性の肛門の尖圭コンジローマは多くは男性同性愛者(のなかでも女役、いわゆる「ウケ」または「ネコ」、英語で言えば「bottom」)ですが、異性愛者が女性からうつる場合もあります。これは、おそらくは尖圭コンジローマの原因ウイルスであるHPV(子宮頚ガンをきたすHPVとは違うタイプのものです)が腟分泌液などに含まれていて、それが男性の肛門にまでたどりついて肛門に発生したものと思われます。また、男性の場合、尿道の中にもできることがあり、後述するようにこの場合はかなりやっかいです。
女性の場合は、外陰部と腟の入口付近が圧倒的に多いのですが、やはり肛門にできることもあります。これはやはり精液などにHPVが含まれていて女性の肛門まで流れ着いたのでしょう。もちろん、肛門性交(アナルセックス)をすれば肛門にできることがあります。
女性で要注意なのは、腟の中や子宮腟部(子宮の入口で腟の奥に位置した部位)にできたときです。通常、尖圭コンジローマは痛みも痒みもありませんから、腟内や子宮腟部にできたときは自身では分かりません。医師が腟の奥まで診察して初めて感染の有無が分かるのです。このため性的パートナーが尖圭コンジローマに罹患すると、自覚症状がまったくなくても、数ヶ月間は医療機関を受診して腟内に尖圭コンジローマができていないかどうかを確認しなければなりません。
先ほど、尖圭コンジローマは外性器と外性器の接触が原因と述べましたが、まれに、オーラルセックスでも感染することがあります。フェラチオで男性器から女性の唇に感染することがあるのです。ただし、この場合、通常は尖圭コンジローマとは呼ばず、「口唇の尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)」と呼ぶのが普通です。「疣贅」というのは「イボ」のことで、尖圭コンジローマは「性器にできるイボ」と定義されることが多いために、口唇に感染したとしても尖圭コンジローマとは呼ばれないのです。
外性器にできた尖圭コンジローマであれば、後で詳しく述べるように治療に時間はかかってやっかいではありますが、普通は他人からは見えないところに現れます。しかし、唇にできた場合は、感染した理由は他人からは分かりませんが、目立つところにできるわけですから、完全に治癒するまでは大変やっかいだと言えます。ですから、尖圭コンジローマの可能性が少しでもある相手に対してフェラチオなどをおこなえば後で大変苦労することになります。
<続きはコチラ>