ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」
悩ましき尖圭コンジローマ その5
臨床的にときどき遭遇するのが、ボーエン様丘疹症(bowenoid papulosis)と呼ばれるものです。これは、子宮頚ガンや尖圭コンジローマの原因ウイルスとして有名なHPVが原因であることが分かっています。ただし、尖圭コンジローマの原因のHPVとは違うタイプのものであることが多いようです。(しかし、ボーエン様丘疹症の原因HPVは16型であることがあり、これは子宮頚ガンの原因になることもあります。これ以上の説明は専門的になりすぎますのでやめておきます)
ボーエン様丘疹症は、ゴマ粒くらいの大きさのイボがたくさんできて密集している(集簇化する)ことが多いのが特徴です。典型例の尖圭コンジローマのように表面がキタナイ感じはせずに、平滑な表面をしており同じくらいの大きさのイボがきれいに整列しているような印象があります。
ボーエン様丘疹症は、放置しておくと悪性化する可能性があります。したがって、疑えば生検(腫瘍の一部を切り取って病理学的検査をおこなうこと)をおこなうこともありますし、確定診断をつけずに治療をおこなうこともあります。これは、尖圭コンジローマのときと同じような治療で治ることも多いからです。ただし、治療をしても改善しないような場合は、早めに外科的にすべてを切除することを検討すべきです。
ボーエン様丘疹症ほどではありませんが、外陰ガンや陰茎ガン、肛門ガンなども症状出現初期には、尖圭コンジローマと見分けがつきにくいことがあります。ガンの場合であってもごく初期の小さな段階であれば、尖圭コンジローマと同様の治療で治癒することも期待できますが、ボーエン様丘疹症と同様、(尖圭コンジローマと同様の)治療を試みてもまったく改善しない場合は、早めにガンと考えて切除を検討するべきです。
尖圭コンジローマと見分けがつきにくい腫瘍のなかに、悪性腫瘍、もしくは悪性化する可能性のある腫瘍がある、という話をしましたが、では、尖圭コンジローマは絶対に悪性化しないのか、という問題があります。これについては、「ほとんどない」というのが答えになります。「原則として悪性化しない」と書かれているものもありますが、放置しておくとゴルフボール大、あるいはそれ以上の大きさになることもあり、こうなると悪性化する可能性がでてきます。尖圭コンジローマが小さい段階であれば、悪性化することはまずありませんから、他のすべての病気と同様、早い段階で治療を受けるのが懸命です。
ここまでを簡単にまとめておきます。
まず、尖圭コンジローマを否定できない性器のイボがあれば医療機関を受診しましょう。イボがまったくなくても、女性の場合は腟の中や子宮の入り口など自分自身では見ることのできない部位にできることもありますから、性的パートナーに尖圭コンジローマがある(あった)場合や、複数のパートナーがいる方やセックスワークをしている女性は定期的に診察を受けた方がいいかもしれません。
医療機関では、治療をする必要がないのが明らかな場合(たんなる毛穴の隆起やヒダ、フォアダイスなど)は、その旨を説明し、その時点で診察終了となります。扁平コンジローマの可能性があるときは梅毒の検査(血液検査)をおこないます。このとき梅毒陽性であれば扁平コンジローマと考えて梅毒の治療を開始します。
尖圭コンジローマを視診で確定した場合や尖圭コンジローマを否定できないと考えた場合(ボーエン様丘疹症やその他良性腫瘍で尖圭コンジローマを完全に否定できないとき)には、尖圭コンジローマの治療をおこなうことになります。また、場合によっては尖圭コンジローマかどうかを正確に診断するために、生検(イボの一部を切り取って病理学的検査をおこなう)をすることもあります。
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悩ましき尖圭コンジローマ その4
前にお話しましたように、尖圭コンジローマと似たような病気に扁平コンジローマというものがあり、この原因は梅毒です。梅毒については、以前このコラムでお話しましたように抗生物質で治ります。もしも、実際には扁平コンジローマであるのに、誤診して尖圭コンジローマと考え、尖圭コンジローマに対する治療をおこなってしまえば、治らないどころか、医療者が患者さんから梅毒に感染するリスクもでてきます。ですから、尖圭コンジローマと扁平コンジローマは絶対に誤診してはいけないのです。
では誤診を避けるためにどうするのか。我々医療者は、扁平コンジローマの可能性が否定できないと考えた場合は、まずは梅毒の簡易検査をおこないます。医療機関にもよりますが、梅毒の検査は簡単な血液検査で30分から1時間程度でその場で分かります。ですから、扁平コンジローマを少しでも疑えば、まずは血液検査で梅毒感染の有無を調べるのです。
扁平コンジローマ以外にも、尖圭コンジローマに似たイボがあります。患者さんが「尖圭コンジローマができたかもしれないんです・・・」と言って来院されたときに、単なる毛穴の隆起(ふくらみ)をイボと考えていたり、女性の場合であれば腟や外陰部のヒダの一部を指していたりすることがよくあります。これらはもちろん治療する必要がありません。
ときどき、毛穴に細菌感染が生じ、炎症がおこっている場合があります。これは毛のう炎と呼ばれるもので、分かりやすく言えば「ニキビの親戚」みたいな状態です。この場合、赤みや痛みが強ければ抗生物質の塗り薬や飲み薬を処方することがあります。尖圭コンジローマには通常、痛みや痒みはありませんから、痛みや激しい痒みがあれば、それだけで尖圭コンジローマである可能性はほとんどありません。(ただし勢いよく尖圭コンジローマが増えるときに軽い痒みを感じることはあります)
フォアダイスと呼ばれる状態があります。これは、脂腺(アブラがたまっている袋のようなもので誰にでもあります)が大きくなって腫瘍のように見える状態で、もちろん異常ではありません。陰茎や大陰唇・小陰唇にできて、大きなものであれば直径2~3mm程度になることもありますから、尖圭コンジローマかな?っと思われても無理もないかもしれません。これは、通常は医師が診察すれば分かります。
男性の場合、このフォアダイスが冠状溝(亀頭のすぐ手前側の溝の部分)にできることがあり、これが大きいと尖圭コンジローマではないか・・・、と考える人がいます。しかし、冠状溝のフォアダイスは、日本人男性のおよそ半数が持っているとも言われており、何も気にする必要はありません。美容的な目的で切除を考える人もいるようですが、病気でもないものに対して手術をすることにはあまり賛成できません。(保険が利かず高額になりますし、手術にはそれなりのリスクも伴います)
尖圭コンジローマと鑑別すべきものに、尖圭コンジローマ以外の腫瘍があります。多くは他人に感染させることのない良性腫瘍で、経過観察のみでかまいません。経過観察というのは、「大きくなっていかないかに注意を払う必要があるけれども直ちに治療する必要はない」、という意味です。同じ良性腫瘍の尖圭コンジローマに対してはすぐに治療をしなければならない最大の理由は「他人に感染させることを防ぐため」です。
次回は、尖圭コンジローマではないけれども尖圭コンジローマに似ている良性腫瘍及び悪性腫瘍についてお話していきます。
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