ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」
いわゆる"雑菌"の病気 その2
前回は、自宅でおこなう検査キットは使用が大変むつかしく、せっかく検査しても正確さにかける可能性がある、というお話をしました。
今回は、前回紹介しましたAさんの実際の結果についてお話します。
Aさんは、自宅でおこなう検査キットで、クラミジア、淋病、カンジダ、トリコモナスのすべてが陰性だったのにもかかわらず、おりものの臭いがおかしい、と言って来院されました。
ではAさんの検査結果が、前回お話したような理由、要するに検査の信憑性が低いために間違っていたのかというと、そういうわけではありませんでした。私が診察した結果も、検査キットと同様、これら4つの感染症にはかかっていませんでした。
では、Aさんは感染症にかかっていなかったのでしょうか。答えは"否"です。
私の診察結果は、「細菌性腟炎及び非特異性子宮頚管炎」というものです。言葉がむつかしいように感じますが、一般的には「腟内や子宮の入口に雑菌が多いですよ」と言われるものです。
そもそも、子宮頚管や腟内で"悪さ"をする細菌というのはクラミジアと淋菌だけではありません。ちょっと例をあげてみると、大腸菌、レンサ球菌、ブドウ球菌、・・・、とたくさんあり、なかには悪臭を放つ細菌もいます。
では、これらひとつひとつの検査をクラミジアや淋菌のように検査をしなければならないのかと言えば、そういうわけではありません。なぜ、クラミジアや淋菌がやっかいなのかというと、この2つの菌は比較的子宮頚管で増殖しやすく、放っておけば子宮から卵管、さらに腹腔内にまで広がることがあるからです。有名な(有名ではないかもしれませんが)Fitz-Hugh-Curtis症候群という病気は、クラミジアが肝臓にまで波及した結果起こる病気です。ですから、なんとしてもクラミジアや淋病は早期に発見しなければならないのです。
それに対して、これら2つ以外の菌は、通常はそれほど重症化せずに、菌の量が増えたとしても、性交痛やおりものの異常(量が多い、臭いがおかしい)が起こるだけという場合が多いのです。そして、こういったクラミジアと淋菌以外の細菌を便宜上"雑菌"と呼んでいるわけです。
では、これら"雑菌"は放っておいていいかと言うと、あまり量が増えすぎるとよくありません。性交痛もおりものの悪臭も、患者さん自身だけでなくそのパートナーも困るのは明らかでしょう。
性感染症の検査を受けると、「雑菌が多いですね」と言われる以外にも「炎症が強いようです」と言われることがありますが、これもだいたいは同じ意味です。要するに"雑菌"が増えることによって膣壁や子宮に炎症が起こるわけです。「炎症」という言葉はむつかしいかもしれませんが、風邪をひいたときに喉が痛くなる様子を想像すれば分かりやすいと思います。つまり、風邪のときの喉の腫れと同じような状態が子宮や膣壁でおこっているというわけです。
"雑菌"の治療はどうするのでしょうか。クラミジアや淋菌とは異なり、"雑菌"の場合は、たいていは標準的な抗生物質の腟錠もしくは飲み薬を使えばすぐに治ります。ただし、治っているかどうかの確認検査は念のためにしておいた方がいいでしょう。一方、クラミジアと淋菌に対しては効果のある抗生物質が決まっていて、それらとは別の系統の抗生物質を使えば治らないことが多いのです。
医師が腟内や子宮頚管の細菌の検査をおこなうときは、クラミジアと淋菌に加え、"雑菌"の量と炎症の程度をみていることになります。もちろん、細菌以外の病原体であるトリコモナスやカンジダも必ず確認しています。
ただし、この"雑菌"というのは少しでも見つかればすぐに治療というわけではありません。腟の中が無菌という人はいません。どんな人にもいくらかの細菌はいます。
この腟内に生息する細菌の中には、いくらいても構わない、というか、むしろ存在するのが好ましい細菌もいます。一番有名なのは乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)で、これは「善玉菌」と呼ばれることもあります。この善玉菌が多ければ悪い細菌("雑菌")が腟内に入ってくるのを防いでくれます。
よく、「腟内は洗わない方がいいよ」と言われることがありますが、これは腟内を洗浄することによって、人間にとって味方である善玉菌も洗い流すことになるからです。
しかし、「腟内は洗わない方がいい」というのはその人の環境にもよります。性交渉の相手が特定のひとりだけであり、なおかつ不潔なセックスをしていなければ、確かに洗浄しない方がいいでしょう。一方、もしも複数のパートナーがいたり、セックスワークをしていたりすれば、善玉菌の活躍だけでは悪玉菌("雑菌")の進入を防ぐことはできないと考えるべきです。こういった場合は、善玉菌に頼らずに適度に洗浄する方がいいでしょう。
さて、話をAさんに戻しましょう。
私が診察した結果、Aさんは"雑菌"による腟炎と頸管炎をおこしていました。菌の量はかなり多くて、炎症の程度もかなり強かったので、私は5日分の抗生物質の飲み薬と腟錠を処方し、1週間後に来院するように言いました。
1週間後、Aさんは「すっかり臭いがなくって元の状態になりました」と言って診察にやってきました。腟内と子宮頚管を綿棒でぬぐいそれを顕微鏡でみてみると、あれほど多量にあった細菌像が大きく減少し、炎症の程度も大きく改善していました。これで「治癒」です。
最後に"雑菌"は性感染症か性感染症でないかについてお話しましょう。
これはどちらの場合もあります。性交渉がなくても寝不足や疲労、精神的ストレスなどがある場合は、身体の抵抗力がおちて、腟内の"雑菌"が増えることがあります。(抵抗力が落ちると"雑菌"ではなくカンジダが増えることもあります)
したがって、"雑菌"による腟炎や頸管炎は性感染症でない場合も多々あります。しかし、Aさんが性感染症を疑っていたように、実際には性行為によって、男性のペニスや指、あるいは唾液に付いている細菌が腟内に入り込んだ結果であることも多いわけです。
性行為があろうがなかろうが、性感染症であろうがなかろうが、おりものの異常や性交痛があれば、医療機関を受診するのが最も得策です。
"雑菌"の量の多さや炎症の程度、そして治療が必要かどうかは、「自宅でできる検査キット」ではまったく分からないのです。
今回は、前回紹介しましたAさんの実際の結果についてお話します。
Aさんは、自宅でおこなう検査キットで、クラミジア、淋病、カンジダ、トリコモナスのすべてが陰性だったのにもかかわらず、おりものの臭いがおかしい、と言って来院されました。
ではAさんの検査結果が、前回お話したような理由、要するに検査の信憑性が低いために間違っていたのかというと、そういうわけではありませんでした。私が診察した結果も、検査キットと同様、これら4つの感染症にはかかっていませんでした。
では、Aさんは感染症にかかっていなかったのでしょうか。答えは"否"です。
私の診察結果は、「細菌性腟炎及び非特異性子宮頚管炎」というものです。言葉がむつかしいように感じますが、一般的には「腟内や子宮の入口に雑菌が多いですよ」と言われるものです。
そもそも、子宮頚管や腟内で"悪さ"をする細菌というのはクラミジアと淋菌だけではありません。ちょっと例をあげてみると、大腸菌、レンサ球菌、ブドウ球菌、・・・、とたくさんあり、なかには悪臭を放つ細菌もいます。
では、これらひとつひとつの検査をクラミジアや淋菌のように検査をしなければならないのかと言えば、そういうわけではありません。なぜ、クラミジアや淋菌がやっかいなのかというと、この2つの菌は比較的子宮頚管で増殖しやすく、放っておけば子宮から卵管、さらに腹腔内にまで広がることがあるからです。有名な(有名ではないかもしれませんが)Fitz-Hugh-Curtis症候群という病気は、クラミジアが肝臓にまで波及した結果起こる病気です。ですから、なんとしてもクラミジアや淋病は早期に発見しなければならないのです。
それに対して、これら2つ以外の菌は、通常はそれほど重症化せずに、菌の量が増えたとしても、性交痛やおりものの異常(量が多い、臭いがおかしい)が起こるだけという場合が多いのです。そして、こういったクラミジアと淋菌以外の細菌を便宜上"雑菌"と呼んでいるわけです。
では、これら"雑菌"は放っておいていいかと言うと、あまり量が増えすぎるとよくありません。性交痛もおりものの悪臭も、患者さん自身だけでなくそのパートナーも困るのは明らかでしょう。
性感染症の検査を受けると、「雑菌が多いですね」と言われる以外にも「炎症が強いようです」と言われることがありますが、これもだいたいは同じ意味です。要するに"雑菌"が増えることによって膣壁や子宮に炎症が起こるわけです。「炎症」という言葉はむつかしいかもしれませんが、風邪をひいたときに喉が痛くなる様子を想像すれば分かりやすいと思います。つまり、風邪のときの喉の腫れと同じような状態が子宮や膣壁でおこっているというわけです。
"雑菌"の治療はどうするのでしょうか。クラミジアや淋菌とは異なり、"雑菌"の場合は、たいていは標準的な抗生物質の腟錠もしくは飲み薬を使えばすぐに治ります。ただし、治っているかどうかの確認検査は念のためにしておいた方がいいでしょう。一方、クラミジアと淋菌に対しては効果のある抗生物質が決まっていて、それらとは別の系統の抗生物質を使えば治らないことが多いのです。
医師が腟内や子宮頚管の細菌の検査をおこなうときは、クラミジアと淋菌に加え、"雑菌"の量と炎症の程度をみていることになります。もちろん、細菌以外の病原体であるトリコモナスやカンジダも必ず確認しています。
ただし、この"雑菌"というのは少しでも見つかればすぐに治療というわけではありません。腟の中が無菌という人はいません。どんな人にもいくらかの細菌はいます。
この腟内に生息する細菌の中には、いくらいても構わない、というか、むしろ存在するのが好ましい細菌もいます。一番有名なのは乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)で、これは「善玉菌」と呼ばれることもあります。この善玉菌が多ければ悪い細菌("雑菌")が腟内に入ってくるのを防いでくれます。
よく、「腟内は洗わない方がいいよ」と言われることがありますが、これは腟内を洗浄することによって、人間にとって味方である善玉菌も洗い流すことになるからです。
しかし、「腟内は洗わない方がいい」というのはその人の環境にもよります。性交渉の相手が特定のひとりだけであり、なおかつ不潔なセックスをしていなければ、確かに洗浄しない方がいいでしょう。一方、もしも複数のパートナーがいたり、セックスワークをしていたりすれば、善玉菌の活躍だけでは悪玉菌("雑菌")の進入を防ぐことはできないと考えるべきです。こういった場合は、善玉菌に頼らずに適度に洗浄する方がいいでしょう。
さて、話をAさんに戻しましょう。
私が診察した結果、Aさんは"雑菌"による腟炎と頸管炎をおこしていました。菌の量はかなり多くて、炎症の程度もかなり強かったので、私は5日分の抗生物質の飲み薬と腟錠を処方し、1週間後に来院するように言いました。
1週間後、Aさんは「すっかり臭いがなくって元の状態になりました」と言って診察にやってきました。腟内と子宮頚管を綿棒でぬぐいそれを顕微鏡でみてみると、あれほど多量にあった細菌像が大きく減少し、炎症の程度も大きく改善していました。これで「治癒」です。
最後に"雑菌"は性感染症か性感染症でないかについてお話しましょう。
これはどちらの場合もあります。性交渉がなくても寝不足や疲労、精神的ストレスなどがある場合は、身体の抵抗力がおちて、腟内の"雑菌"が増えることがあります。(抵抗力が落ちると"雑菌"ではなくカンジダが増えることもあります)
したがって、"雑菌"による腟炎や頸管炎は性感染症でない場合も多々あります。しかし、Aさんが性感染症を疑っていたように、実際には性行為によって、男性のペニスや指、あるいは唾液に付いている細菌が腟内に入り込んだ結果であることも多いわけです。
性行為があろうがなかろうが、性感染症であろうがなかろうが、おりものの異常や性交痛があれば、医療機関を受診するのが最も得策です。
"雑菌"の量の多さや炎症の程度、そして治療が必要かどうかは、「自宅でできる検査キット」ではまったく分からないのです。
いわゆる"雑菌"の病気 その1
少し前に次のような患者さん(以下Aさん)が来られました。
「先生、あたし、おりものの臭いが気になったんで、また先生にみてもらおうと思ったんですけど、最近忙しくて時間がなかったんで、自宅で検査ができるキットっていうもので検査したんです。自分で綿棒を腟の中に入れて検査するんですけど、それで、クラミジアも淋病もカンジダもトリコモナスもかかってないっていう結果になったんですけど、おりものの臭いは普通じゃないんですよ。あたしは絶対何かの病気にかかってると思うんです・・・」
ときどきこのようなことを言われて受診する人がいます。私自身はよく知らないのですが、インターネットで検査キットを取り寄せて、自分で検査をしてそれを郵送すると数日後にネット上で結果がわかるようなシステムがあるそうなのです。
これは、たしかに忙しくて病院に行く時間がない人には便利なツールかもしれません。けれども、この患者さんのように、検査結果に疑問を抱いて結局クリニックを受診する患者さんがときどきいます。
それで、Aさんは性感染症にかかっていなかったのでしょうか・・・。
診察した結果は、かかっているともかかっていないとも言えない状態でした。かかっているともいないとも言えない状態とはどういうことか・・・。説明をしていきます。
しかし、その前に、この自分で検査をするキットの信憑性について検討してみましょう。
冒頭の患者さんとは別の患者さん(以下Bさん)が来られたときの話です。Bさん(女性)には複数のパートナーがいて、定期的に性感染症の検査をしています。Bさんは知り合いにすすめられた「自宅で検査するキット」を購入してみたそうなのです。
Bさんによると、綿棒のようなものが2本入っていて、1本は腟の奥に入れておりものを取り、もう1本は咽頭をぬぐうそうです。
Bさんがこれを見てどうしたか・・・
とりあえず、自分自身で1本の綿棒を腟の奥におそるおそる入れてみたそうです。しかし、奥まで挿入するのが怖くなって途中でやめたと言います。けれど、それでも綿棒の先におりものが付着していることを確認してとりあえずOKとしました。
次に、もう1本の綿棒で喉をぬぐおうと試みたのですが・・・。鏡で喉の位置を確認したのはいいのですが、自分の喉に綿棒を当てることが怖くてどうしてもできなかったそうです。結局、Bさんはこのキットを使うことを諦めてしまいました。
結局Bさんは高価な検査キットを買ったものの利用することができなかったことになります。私がこの話を聞いて、「問題」と思ったことは2つあります。
1つは、クラミジアや淋菌による子宮頚管炎というのは、正確にはおりものの検査では分かりません。ある程度重症化して、クラミジアや淋菌が増殖し、おりものに混ざるようになれば検出可能ですが、感染初期、もしくは感染してから時間がたっていても菌の量が少なければ、おりものの中には菌が見つからない可能性があります。
通常、子宮頚管炎というのは文字通り子宮頚管に細菌がいないかどうかを調べます。自分で綿棒を腟の奥に挿入すると自動的に子宮頚管に到達すればいいのですが、実際にはそんなことは不可能です。これは他人にしてもらっても不可能です。
なぜなら、通常子宮頚管というのは、外(腟の入口の方向)を向いておらず、腟の上や下の方に曲がっていることが多いからです。医師が診察するときには、まずは子宮頸部を露出することから始めます。腟鏡(クスコ)と呼ばれる金属製(もしくはプラスティック製)の医療器具を使って、ある程度腟を広げて子宮頸部と子宮頚管を目で確認します。そして、ゆっくりと綿棒を子宮頚管に挿入していきます。この作業は腟鏡を使わなければ絶対にできません。
Bさんがおこなった自己採取では、もしもクラミジアや淋菌がある程度増殖していて、おりものに混じっていれば検出できる可能性がありますが、菌量が少ないときは見逃してしまいます。つまり、本当はかかっているのにかかっていないという結果が出ることになります。
2つめの「問題」は喉の検査です。Bさんは自分の喉を綿棒でぬぐうことが怖くてできなかったそうですが、これは、もしもできたとしても正確ではない可能性があります。
通常、人にもよりますが、喉を綿棒でこすると、オエッと吐き気が起こります。ですから、我々医師が患者さんの喉を綿棒でこするときは、吐き気が起こらないようにごく短時間でこの作業をおこないます。
しかし、咽頭及び扁桃というのはけっこう面積が広くて、すべての部位をぬぐうことは実際にはできません。そこで我々医師はどうしているかというと、まずは咽頭全体を眺めて最も感染していそうな場所、要するに最も赤いところ、最もあれているところなどを確認します。そして患者さんにリラックスするよう言い、精一杯大きな口を開けてもらい、狙った部位数箇所を素早く綿棒でぬぐいます。
この作業は医師であっても慣れるまでに相当な訓練が必要です。クラミジアや淋菌による咽頭炎というのは、絶対に他人にうつしたくないと患者さんは考えていますから、見逃すようなことはあってはならないわけです。ですから、簡単そうに見えるかもしれませんが、この作業をおこなうときには実は医師の方もけっこう緊張しているものなのです。
要するに、クラミジアや淋病の検査をおこなうときは、充分に注意して感染している可能性のある部分を狙って採取しなければ、検査結果が正確とは言えないわけです。
次回はAさんのケースについて解説していきます。
<続きはコチラ>
「先生、あたし、おりものの臭いが気になったんで、また先生にみてもらおうと思ったんですけど、最近忙しくて時間がなかったんで、自宅で検査ができるキットっていうもので検査したんです。自分で綿棒を腟の中に入れて検査するんですけど、それで、クラミジアも淋病もカンジダもトリコモナスもかかってないっていう結果になったんですけど、おりものの臭いは普通じゃないんですよ。あたしは絶対何かの病気にかかってると思うんです・・・」
ときどきこのようなことを言われて受診する人がいます。私自身はよく知らないのですが、インターネットで検査キットを取り寄せて、自分で検査をしてそれを郵送すると数日後にネット上で結果がわかるようなシステムがあるそうなのです。
これは、たしかに忙しくて病院に行く時間がない人には便利なツールかもしれません。けれども、この患者さんのように、検査結果に疑問を抱いて結局クリニックを受診する患者さんがときどきいます。
それで、Aさんは性感染症にかかっていなかったのでしょうか・・・。
診察した結果は、かかっているともかかっていないとも言えない状態でした。かかっているともいないとも言えない状態とはどういうことか・・・。説明をしていきます。
しかし、その前に、この自分で検査をするキットの信憑性について検討してみましょう。
冒頭の患者さんとは別の患者さん(以下Bさん)が来られたときの話です。Bさん(女性)には複数のパートナーがいて、定期的に性感染症の検査をしています。Bさんは知り合いにすすめられた「自宅で検査するキット」を購入してみたそうなのです。
Bさんによると、綿棒のようなものが2本入っていて、1本は腟の奥に入れておりものを取り、もう1本は咽頭をぬぐうそうです。
Bさんがこれを見てどうしたか・・・
とりあえず、自分自身で1本の綿棒を腟の奥におそるおそる入れてみたそうです。しかし、奥まで挿入するのが怖くなって途中でやめたと言います。けれど、それでも綿棒の先におりものが付着していることを確認してとりあえずOKとしました。
次に、もう1本の綿棒で喉をぬぐおうと試みたのですが・・・。鏡で喉の位置を確認したのはいいのですが、自分の喉に綿棒を当てることが怖くてどうしてもできなかったそうです。結局、Bさんはこのキットを使うことを諦めてしまいました。
結局Bさんは高価な検査キットを買ったものの利用することができなかったことになります。私がこの話を聞いて、「問題」と思ったことは2つあります。
1つは、クラミジアや淋菌による子宮頚管炎というのは、正確にはおりものの検査では分かりません。ある程度重症化して、クラミジアや淋菌が増殖し、おりものに混ざるようになれば検出可能ですが、感染初期、もしくは感染してから時間がたっていても菌の量が少なければ、おりものの中には菌が見つからない可能性があります。
通常、子宮頚管炎というのは文字通り子宮頚管に細菌がいないかどうかを調べます。自分で綿棒を腟の奥に挿入すると自動的に子宮頚管に到達すればいいのですが、実際にはそんなことは不可能です。これは他人にしてもらっても不可能です。
なぜなら、通常子宮頚管というのは、外(腟の入口の方向)を向いておらず、腟の上や下の方に曲がっていることが多いからです。医師が診察するときには、まずは子宮頸部を露出することから始めます。腟鏡(クスコ)と呼ばれる金属製(もしくはプラスティック製)の医療器具を使って、ある程度腟を広げて子宮頸部と子宮頚管を目で確認します。そして、ゆっくりと綿棒を子宮頚管に挿入していきます。この作業は腟鏡を使わなければ絶対にできません。
Bさんがおこなった自己採取では、もしもクラミジアや淋菌がある程度増殖していて、おりものに混じっていれば検出できる可能性がありますが、菌量が少ないときは見逃してしまいます。つまり、本当はかかっているのにかかっていないという結果が出ることになります。
2つめの「問題」は喉の検査です。Bさんは自分の喉を綿棒でぬぐうことが怖くてできなかったそうですが、これは、もしもできたとしても正確ではない可能性があります。
通常、人にもよりますが、喉を綿棒でこすると、オエッと吐き気が起こります。ですから、我々医師が患者さんの喉を綿棒でこするときは、吐き気が起こらないようにごく短時間でこの作業をおこないます。
しかし、咽頭及び扁桃というのはけっこう面積が広くて、すべての部位をぬぐうことは実際にはできません。そこで我々医師はどうしているかというと、まずは咽頭全体を眺めて最も感染していそうな場所、要するに最も赤いところ、最もあれているところなどを確認します。そして患者さんにリラックスするよう言い、精一杯大きな口を開けてもらい、狙った部位数箇所を素早く綿棒でぬぐいます。
この作業は医師であっても慣れるまでに相当な訓練が必要です。クラミジアや淋菌による咽頭炎というのは、絶対に他人にうつしたくないと患者さんは考えていますから、見逃すようなことはあってはならないわけです。ですから、簡単そうに見えるかもしれませんが、この作業をおこなうときには実は医師の方もけっこう緊張しているものなのです。
要するに、クラミジアや淋病の検査をおこなうときは、充分に注意して感染している可能性のある部分を狙って採取しなければ、検査結果が正確とは言えないわけです。
次回はAさんのケースについて解説していきます。
<続きはコチラ>