ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」
子宮頚ガンとHPVワクチン その1
それは私がある医療機関で研修を受けていた頃の話・・・。
30代後半の女性(仮にRさんとしておきます)は、子宮頚ガンの末期で、痛みをとったり精神的なケアをしたりする以外には治療がないような状態でした。幸い、ご主人やお姉さんはケアに熱心で、Rさんの精神状態は我々医療従事者がみる限り安定しているように感じられました。
あるとき、Rさんのお姉さんが私に言いました。「先生、妹の病気は性病なんかじゃないですよね。ある人に妹のことを話すと、遠まわしな言い方なんですが、その病気は性病じゃないの、ってことを言われたんです。妹は夫しか知らないんですよ。それに妹の夫はとても誠実な人なんです・・・」
このRさんのお姉さんの言葉は、子宮頚ガンという病気がいかに世間で誤解されているかを表しています。そして、最近この"誤解"が急速に広がっているのではないかと私は感じています。
子宮頚ガンは、たしかにほとんどがHPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスが原因になっています。性交渉を通してHPVが子宮頸部(子宮の入口の部分)に感染し、数年の月日を経て子宮頸部の細胞がガン化していきます。これだけを取り上げると、「HPVは性交渉を通して感染するんだから、その結果として起こる子宮頚ガンもやっぱり性病になるんじゃないの・・・」、と思われる人もいるでしょう。
しかし、そう単純な話ではありません。
HPV感染がガンを意味するわけではないということについてお話していきたいのですが、その前にHPVについて少し補足をしておきます。HPVには様々なものがあり現在100種類以上のHPVがあることがわかっています。これらには番号が割り当てられています。以前紹介しました尖圭コンジローマの原因のHPVは6と11が多いことがわかっています。子宮頚ガンの原因となりうるHPVは、HPVのなかでもハイリスク型と呼ばれるタイプのもので16と18が有名です。
実は、HPVのハイリスク型は多くの女性が一度は感染します。あるデータによりますと、ひとりの女性が生涯を通して一度はHPVのハイリスク型に感染する確率は8割以上だそうです。しかし、もちろん世の中の8割の女性が子宮頚ガンになるわけではありません。
詳しく説明しましょう。まず、HPVが性交渉を通して子宮頸部に感染するのは事実です。そして、データにもよりますが、20歳前後の女性では7~8割がHPVのハイリスク型を有していると言われています。しかし、原因は解明されていませんが、子宮頸部に感染したHPVは自然に消退し、30歳前後になるとHPV陽性者はおよそ半分程度にまで減少すると言われています。
では、その半分が全員子宮頚ガンになるのかと言えば、もちろんそんなことはありません。たしかに、日本では子宮頚ガンは女性のガンでは乳ガンに次いで2番目に多いガンで、年間およそ1万人が感染し、2,500人から3,500人が死亡していると言われています。しかし、HPVを有していればそれだけでガンになるわけではないのです。
つまり、子宮頚ガンが発症するには、HPV感染+「別の要因」が必要となるというわけです。この「別の要因」についてははっきりとしたことが分かっていません。喫煙や飲酒が指摘されており、喫煙については疫学的にかなり確証を得られていますが、では「HPV+喫煙」だけで子宮頚ガンの原因が説明できるかと言われればそういうわけではありません。
書物によっては、子宮頚ガンになりやすいのは、「多産」「初交年齢が若い」「複数のセックスパートナー」などと記載されていますが、では「これら3つの要件+HPV感染」があれば必ず子宮頚ガンになるのかと言えばそういうわけでもありません。
その逆に、Rさんのように「生涯ひとりの男性しか知らない」という女性にも子宮頚ガンは起こるのです。
つまり、HPVと子宮頚ガンの関係は、「子宮頚ガンの原因にHPVがあるのは事実だが、HPV感染は多くの女性が経験するものであって、特に危険な性交渉のある女性だけがHPVに感染するわけでも子宮頚ガンになるわけでもない」と考えるべきなのです。
<続きはこちら>
30代後半の女性(仮にRさんとしておきます)は、子宮頚ガンの末期で、痛みをとったり精神的なケアをしたりする以外には治療がないような状態でした。幸い、ご主人やお姉さんはケアに熱心で、Rさんの精神状態は我々医療従事者がみる限り安定しているように感じられました。
あるとき、Rさんのお姉さんが私に言いました。「先生、妹の病気は性病なんかじゃないですよね。ある人に妹のことを話すと、遠まわしな言い方なんですが、その病気は性病じゃないの、ってことを言われたんです。妹は夫しか知らないんですよ。それに妹の夫はとても誠実な人なんです・・・」
このRさんのお姉さんの言葉は、子宮頚ガンという病気がいかに世間で誤解されているかを表しています。そして、最近この"誤解"が急速に広がっているのではないかと私は感じています。
子宮頚ガンは、たしかにほとんどがHPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスが原因になっています。性交渉を通してHPVが子宮頸部(子宮の入口の部分)に感染し、数年の月日を経て子宮頸部の細胞がガン化していきます。これだけを取り上げると、「HPVは性交渉を通して感染するんだから、その結果として起こる子宮頚ガンもやっぱり性病になるんじゃないの・・・」、と思われる人もいるでしょう。
しかし、そう単純な話ではありません。
HPV感染がガンを意味するわけではないということについてお話していきたいのですが、その前にHPVについて少し補足をしておきます。HPVには様々なものがあり現在100種類以上のHPVがあることがわかっています。これらには番号が割り当てられています。以前紹介しました尖圭コンジローマの原因のHPVは6と11が多いことがわかっています。子宮頚ガンの原因となりうるHPVは、HPVのなかでもハイリスク型と呼ばれるタイプのもので16と18が有名です。
実は、HPVのハイリスク型は多くの女性が一度は感染します。あるデータによりますと、ひとりの女性が生涯を通して一度はHPVのハイリスク型に感染する確率は8割以上だそうです。しかし、もちろん世の中の8割の女性が子宮頚ガンになるわけではありません。
詳しく説明しましょう。まず、HPVが性交渉を通して子宮頸部に感染するのは事実です。そして、データにもよりますが、20歳前後の女性では7~8割がHPVのハイリスク型を有していると言われています。しかし、原因は解明されていませんが、子宮頸部に感染したHPVは自然に消退し、30歳前後になるとHPV陽性者はおよそ半分程度にまで減少すると言われています。
では、その半分が全員子宮頚ガンになるのかと言えば、もちろんそんなことはありません。たしかに、日本では子宮頚ガンは女性のガンでは乳ガンに次いで2番目に多いガンで、年間およそ1万人が感染し、2,500人から3,500人が死亡していると言われています。しかし、HPVを有していればそれだけでガンになるわけではないのです。
つまり、子宮頚ガンが発症するには、HPV感染+「別の要因」が必要となるというわけです。この「別の要因」についてははっきりとしたことが分かっていません。喫煙や飲酒が指摘されており、喫煙については疫学的にかなり確証を得られていますが、では「HPV+喫煙」だけで子宮頚ガンの原因が説明できるかと言われればそういうわけではありません。
書物によっては、子宮頚ガンになりやすいのは、「多産」「初交年齢が若い」「複数のセックスパートナー」などと記載されていますが、では「これら3つの要件+HPV感染」があれば必ず子宮頚ガンになるのかと言えばそういうわけでもありません。
その逆に、Rさんのように「生涯ひとりの男性しか知らない」という女性にも子宮頚ガンは起こるのです。
つまり、HPVと子宮頚ガンの関係は、「子宮頚ガンの原因にHPVがあるのは事実だが、HPV感染は多くの女性が経験するものであって、特に危険な性交渉のある女性だけがHPVに感染するわけでも子宮頚ガンになるわけでもない」と考えるべきなのです。
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