ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」

子宮頚ガンとHPVワクチン その2

 ここ半年くらいの間、HPV感染の有無を調べてほしいと言って私の元を受診する男女が増えています。これは、おそらく日本でもHPVワクチンが認可されて、2009年12月から一般の医療機関でワクチン接種が可能になり、マスコミがそれを報道する機会が増えたからではないかと思われます。

 HPV感染の有無を調べてほしいという依頼が増えているのは、世間にHPVという病原体が認知されるようになってきたという意味では歓迎すべきことなのですが、どれだけ正確に理解されているかを疑問に感じることがしばしばあります。

 というのも前回述べましたように、<HPV感染→子宮頚ガン>と単純に理解している人が少なくないからです。過剰に気にしている人のなかには、「自分がHPVに感染しておらず、婚約者が感染していたとすれば婚約解消を考える」という女性までいて大変驚かされたことがあります。この女性は、夫がHPVを持っていれば夫婦生活を通していずれ自分はガンになる、と考えていたのです。

 私は、HPV感染の有無を調べてほしいと言われても、まずはその必要性はそれほど高くないことを説明します。  

 まず、前回述べたようにHPV感染がガン発症に直結するわけではありません。次に、もしもHPVを死滅させることのできる薬があれば、HPVの有無を調べることに意味がありますが、そのような薬は存在しないのです。HPVの検査をして仮に「HPV陽性」という結果が出たとしても、どうすることもできないのです。せいぜい、「年に一度のガン検診を忘れないように」と助言することができるくらいです。

 それからもうひとつ。HPVの有無を調べる検査は保険適用がありませんから、調べるのに高額な費用がかかります。価格は医療機関によっても異なりますが、だいたい2万円前後(ハイリスク型の有無まで調べれば5万円前後)はします。ということは、高い費用をかけてHPVの検査をして、陽性だったとしても治療法はなく、年に一度のガン検診を(これまでどおり)おこなうしかすることがないのです。HPVが陰性と判ったときにどうすべきか、というと、やはり年に一度のガン検診をすることになります。

 HPVの検査をして陰性だったときは、ガン検診を毎年ではなく2~3年に一度にする、という考え方もありますが、子宮頚ガンの検診はほとんど痛みがなくおこなえる簡単な検査(クラミジアや淋病の検査と同じような検査)ですから、私個人の考えを言えば、HPVが陰性であったとしても年に一度はガン検診をおこなうべきだと思います。

 HPVの有無を調べる検査に意味があるとすれば、それは「陰性であればワクチンを接種する」という前提で検査をするときです。しかし、この考えもそれほど有用なわけではないと私は考えています。というのも、例えば麻疹(はしか)ウイルスの場合は、いったん感染して治癒すると通常は終生免疫ができて生涯を通して再感染することはありません。一方、HPVの場合はこのようなタイプの感染症ではありません。HPV感染は一度感染して治癒したとしても、数年後に再感染することがあると考えられているのです。

 ということは、HPV陽性であったとしても、いずれいったん治って新たに感染する可能性があるわけです。ならば、HPV陽性の人もワクチン接種をすべきである、ということになります。HPVワクチンの対象者については後述しますが、HPVの有無に関わらずワクチンがすすめられるのだとすれば、高いお金を払っておこなうHPVの検査の有用性が乏しくなります。

実際、2009年12月に発売になった「サーバリックス」というワクチンの製造元のグラクソスミスクライン社では、10歳以上の女性であればHPVの有無に関わらずワクチン接種をすすめています。

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プロフィール

医師。NPO法人GINA(ジーナ)代表。
太融寺町谷口医院(11月1日に「すてらめいとクリニック」から名称変更)院長。大阪市立大学医学部非常勤講師。著書に『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』(文芸社)など。