ドクター谷口の「セイフティ・セックス講座」
子宮頚ガンとHPVワクチン その4
前回述べましたように、HPVのワクチンは万能ではないわけですが(少なくともポリオや麻疹(はしか)、あるいはB型肝炎のワクチンほどは頼りになるワクチンではありません)、それでもこのHPVのワクチンは、医学の歴史に残るほどのすぐれたワクチンです。
子宮頚ガンを発症する女性は、世界で年間約50万人、死亡者は約27万人もいます。日本でも年間約1万人が発症し約3千人が死亡していると言われています。仮に、性交を開始する前の女性全員にワクチン接種をしたとすると、ワクチンの有効率が7割だったとして、世界で年間35万人、日本で7千人のガン発症を予防することができる計算になります。死亡者数も激減することは間違いありません。
特に、発展途上国では絶大な効果を発揮するはずです。というのも、医療施設の整っていない途上国では、子宮頚ガンの検査を受けることが容易ではありません。他の先進国に比べて日本人女性の子宮頚ガンの検診率が低いことはよく指摘されますが、それでも2割程度の人は定期的に検査を受けていると言われています。これが途上国に行くと、定期的な検診を受けている女性などごく小数に限られています。
もしも、途上国を含めた世界中でワクチン接種が実施されたとすれば、何百万人という女性の命を救うことができるのです。婦人科領域の悪性腫瘍では子宮頚ガンがダントツのトップです。もしもワクチンを全ての女性に接種するとすれば、20年後の婦人科医の仕事を2~3割は減らすことができるのではないかと私は考えています。要するに、このワクチンは、公衆衛生学的にみたときに、あるいは医療者側からみたときには、大変すぐれた医学史に残るワクチンと言えるわけです。
しかしながら、個人からみたときにはそう手放しで喜んでいられるわけではありません。ここが注意すべき点です。全体でみたときにガンの発症を7割減らすことができるということは、個人には当てはまりません。なぜなら、「7割引きのガンを発症」、などということはあり得ないからです。個人でみたときには、ガンになるかならないか、要するにワクチンの効果は0%か100%か、このどちらかだけです。
したがって、医学史に残るほどのすぐれたワクチンができたからもう安心、というのは全体的、公衆衛生学的にみたときには正しいのですが、個人レベルでみたときには、「すぐれたワクチンができたけども定期的なガン検診は必要」となるわけです。
さて、子宮頚ガンの治療についてお話しましょう。最も重要なのは「子宮頚ガンは早期発見ができれば100%助かるガン」ということです。
ワクチンを接種していてもしていなかったとしても、子宮頚ガンの検査を年に一度していれば確実に早期発見ができます。検査を受けたことがある人はご存知だと思いますが、子宮頚ガンの検査結果は、クラスⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴの5段階で評価されます。これらを分かりやすい言葉で言えば、クラスⅤは明らかなガン、クラスⅣは早期のガン、クラスⅢはガンがちょっとだけあやしいですよ、という意味です。クラスⅢはⅢaとⅢbに分けられて、Ⅲbの方がよりあやしい、ということになります。クラスⅠとクラスⅡはガンの疑いがない、ということになります。
例えば、去年の検査ではクラスⅡだったのに今年はクラスⅤで子宮を全部取らないといけなくなった、などということは通常はありません。なぜなら、ガンは子宮頚ガンに限らず一般的にゆっくりと進行するからです。毎年検査を受けているのに、いきなり子宮全摘と言われた、などということは通常はあり得ないのです。
毎年検査を受けていれば、ガン細胞が生じていたとしても、少しガンがあやしくなったという意味のクラスⅢ(aもしくはb)となるのが普通です。この段階であれば、「少し気になりますから次の検査は1年後ではなく3ヵ月後にしましょう」となるか、もしくは、通常のガン検診(綿棒で子宮頸部をぬぐうだけの痛くない検査)よりも一歩踏み込んだ「生検」という検査をおこないます(これは少し痛みと出血が伴います)。
この時点で、ガンの初期がみつかったとしても子宮をすべて取るなんてことはありません。「円錐切除術」といって、子宮の入口をほんの少しだけ切除する手術をおこないます。あるいは、レーザー治療や光線力学療法といった外科手術ではない治療方法も施設によってはおこなわれています。
円錐切除をおこなっても、他の治療法で治したとしても、妊娠・出産、あるいは性交渉は問題なくおこなえます。(円錐切除の体積が大きければ流産のリスクになるということはあり得ますが、早期発見できていれば切除する体積もごくわずかで済むはずですからそのリスクも軽減するはずです)
要するに、年に一度のガン検診を受けていれば、ガンになったとしても命が助かるだけでなく、妊娠・出産、性行為も問題なくおこなえるといえるわけです。
最後に、男性に対するHPVワクチン接種について考えてみましょう。
ハイリスク型の16と18に対して有効なサーバリックスは男性に対する適用がありません。製造元が男性への接種を認めていないのです。しかし、もうひとつのHPVワクチンにメルク社のガーダシルというものがあり、こちらは男性への適用を米国FDAが承認しています。
ガーダシルはHPVの16と18以外にも6と11に対しても有効です。6と11と言えば、以前お話した尖圭コンジローマの原因となるHPVのなかで最多のものです。尖圭コンジローマは男女とも場合によっては大変やっかいない感染症ですから、ワクチンで防げるのであれば積極的に接種を検討したいところです。現在、ガーダシルの日本での発売は2010年夏以降になる予定で、男性への適用があるかどうかは未定ですが、米国で承認された以上は日本での接種も可能となることが期待できそうです。
では、今回のまとめに入りましょう。
1. HPVには100種類以上のタイプがあり、子宮頚ガンをきたすタイプ(ハイリスク型)のなかで多いのが16と18である。
2. その16と18に効果のあるワクチン(サーバリックス)は2009年12月に日本で発売となった。
3. サーバリックスの有用性は6年以上であるとの研究があるが生涯有効かどうかは未知。
4. サーバリックスの接種の仕方は6か月をかけて3回。費用は5~7万円くらい。
5. HPVワクチンを接種したからといって100%子宮頚ガンの発症を防げるわけではなく効果は7割程度。この主な理由は16と18以外にも子宮頚ガンの原因となるHPVのタイプが存在するというものである。
6. HPVのハイリスク型には多数の女性が感染する。しかし実際にガンになるのはごくわずか。
7. 子宮頚ガンはHPVが原因だが、子宮頚ガンに罹患した女性全員が"危険な性交渉"をしていたわけでは決してない。
8. HPVのワクチンを接種したとしても、定期的なガン検診は必要。定期的なガン検診をおこない早期発見ができれば子宮頚ガンはほぼ100%治癒し、妊娠・出産・性交渉もおこなえる。
9. もうひとつのHPVワクチンであるガーダシルは日本では未発売だが、16と18以外に6と11にも有効で、尖圭コンジローマの予防効果が期待できる。
子宮頚ガンを発症する女性は、世界で年間約50万人、死亡者は約27万人もいます。日本でも年間約1万人が発症し約3千人が死亡していると言われています。仮に、性交を開始する前の女性全員にワクチン接種をしたとすると、ワクチンの有効率が7割だったとして、世界で年間35万人、日本で7千人のガン発症を予防することができる計算になります。死亡者数も激減することは間違いありません。
特に、発展途上国では絶大な効果を発揮するはずです。というのも、医療施設の整っていない途上国では、子宮頚ガンの検査を受けることが容易ではありません。他の先進国に比べて日本人女性の子宮頚ガンの検診率が低いことはよく指摘されますが、それでも2割程度の人は定期的に検査を受けていると言われています。これが途上国に行くと、定期的な検診を受けている女性などごく小数に限られています。
もしも、途上国を含めた世界中でワクチン接種が実施されたとすれば、何百万人という女性の命を救うことができるのです。婦人科領域の悪性腫瘍では子宮頚ガンがダントツのトップです。もしもワクチンを全ての女性に接種するとすれば、20年後の婦人科医の仕事を2~3割は減らすことができるのではないかと私は考えています。要するに、このワクチンは、公衆衛生学的にみたときに、あるいは医療者側からみたときには、大変すぐれた医学史に残るワクチンと言えるわけです。
しかしながら、個人からみたときにはそう手放しで喜んでいられるわけではありません。ここが注意すべき点です。全体でみたときにガンの発症を7割減らすことができるということは、個人には当てはまりません。なぜなら、「7割引きのガンを発症」、などということはあり得ないからです。個人でみたときには、ガンになるかならないか、要するにワクチンの効果は0%か100%か、このどちらかだけです。
したがって、医学史に残るほどのすぐれたワクチンができたからもう安心、というのは全体的、公衆衛生学的にみたときには正しいのですが、個人レベルでみたときには、「すぐれたワクチンができたけども定期的なガン検診は必要」となるわけです。
さて、子宮頚ガンの治療についてお話しましょう。最も重要なのは「子宮頚ガンは早期発見ができれば100%助かるガン」ということです。
ワクチンを接種していてもしていなかったとしても、子宮頚ガンの検査を年に一度していれば確実に早期発見ができます。検査を受けたことがある人はご存知だと思いますが、子宮頚ガンの検査結果は、クラスⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴの5段階で評価されます。これらを分かりやすい言葉で言えば、クラスⅤは明らかなガン、クラスⅣは早期のガン、クラスⅢはガンがちょっとだけあやしいですよ、という意味です。クラスⅢはⅢaとⅢbに分けられて、Ⅲbの方がよりあやしい、ということになります。クラスⅠとクラスⅡはガンの疑いがない、ということになります。
例えば、去年の検査ではクラスⅡだったのに今年はクラスⅤで子宮を全部取らないといけなくなった、などということは通常はありません。なぜなら、ガンは子宮頚ガンに限らず一般的にゆっくりと進行するからです。毎年検査を受けているのに、いきなり子宮全摘と言われた、などということは通常はあり得ないのです。
毎年検査を受けていれば、ガン細胞が生じていたとしても、少しガンがあやしくなったという意味のクラスⅢ(aもしくはb)となるのが普通です。この段階であれば、「少し気になりますから次の検査は1年後ではなく3ヵ月後にしましょう」となるか、もしくは、通常のガン検診(綿棒で子宮頸部をぬぐうだけの痛くない検査)よりも一歩踏み込んだ「生検」という検査をおこないます(これは少し痛みと出血が伴います)。
この時点で、ガンの初期がみつかったとしても子宮をすべて取るなんてことはありません。「円錐切除術」といって、子宮の入口をほんの少しだけ切除する手術をおこないます。あるいは、レーザー治療や光線力学療法といった外科手術ではない治療方法も施設によってはおこなわれています。
円錐切除をおこなっても、他の治療法で治したとしても、妊娠・出産、あるいは性交渉は問題なくおこなえます。(円錐切除の体積が大きければ流産のリスクになるということはあり得ますが、早期発見できていれば切除する体積もごくわずかで済むはずですからそのリスクも軽減するはずです)
要するに、年に一度のガン検診を受けていれば、ガンになったとしても命が助かるだけでなく、妊娠・出産、性行為も問題なくおこなえるといえるわけです。
最後に、男性に対するHPVワクチン接種について考えてみましょう。
ハイリスク型の16と18に対して有効なサーバリックスは男性に対する適用がありません。製造元が男性への接種を認めていないのです。しかし、もうひとつのHPVワクチンにメルク社のガーダシルというものがあり、こちらは男性への適用を米国FDAが承認しています。
ガーダシルはHPVの16と18以外にも6と11に対しても有効です。6と11と言えば、以前お話した尖圭コンジローマの原因となるHPVのなかで最多のものです。尖圭コンジローマは男女とも場合によっては大変やっかいない感染症ですから、ワクチンで防げるのであれば積極的に接種を検討したいところです。現在、ガーダシルの日本での発売は2010年夏以降になる予定で、男性への適用があるかどうかは未定ですが、米国で承認された以上は日本での接種も可能となることが期待できそうです。
では、今回のまとめに入りましょう。
1. HPVには100種類以上のタイプがあり、子宮頚ガンをきたすタイプ(ハイリスク型)のなかで多いのが16と18である。
2. その16と18に効果のあるワクチン(サーバリックス)は2009年12月に日本で発売となった。
3. サーバリックスの有用性は6年以上であるとの研究があるが生涯有効かどうかは未知。
4. サーバリックスの接種の仕方は6か月をかけて3回。費用は5~7万円くらい。
5. HPVワクチンを接種したからといって100%子宮頚ガンの発症を防げるわけではなく効果は7割程度。この主な理由は16と18以外にも子宮頚ガンの原因となるHPVのタイプが存在するというものである。
6. HPVのハイリスク型には多数の女性が感染する。しかし実際にガンになるのはごくわずか。
7. 子宮頚ガンはHPVが原因だが、子宮頚ガンに罹患した女性全員が"危険な性交渉"をしていたわけでは決してない。
8. HPVのワクチンを接種したとしても、定期的なガン検診は必要。定期的なガン検診をおこない早期発見ができれば子宮頚ガンはほぼ100%治癒し、妊娠・出産・性交渉もおこなえる。
9. もうひとつのHPVワクチンであるガーダシルは日本では未発売だが、16と18以外に6と11にも有効で、尖圭コンジローマの予防効果が期待できる。